「別の時に、ガストフロントが研究所を直撃したことがありまして、そちらも動画を撮ってあります。風で建物がゆらゆらしたくらいですから、もう私、何を言ってるか分からないですね」

ガストフロントが研究所を直撃した時の動画。

動画を見ながら、荒木さんは、自身で言う通り、興奮を隠せないのだった。

これは南岸低気圧が関東に雪を降らせた2018年2月2日の高解像度降水ナウキャストの例。(気象庁ホームページより)

「これ、みなさんにもオススメしたいんですけど、パソコンで仕事をしている人などは、気象庁の高解像度降水ナウキャストなどの情報を開けるようにしておくといいですよ。なにかが近づいてくるぞと思ったら、外を見てみるとこういうのに出会えるかもしれません。私は、大気の状態が不安定な日には、だいたいいつもこうやってレーダーを見ていて、これは何か面白いものかもと思ったら雲が来るタイミングを見計らって屋上で張って、待ってますから」

 もっとも、スーパーセルが来たなら、わざわざ外に出るのは推奨できない。台風の時に海に近づいて波を見ようとするのが危険なように、スーパーセルが通過する時に外出するのにも危険がともなう。

「近づいてきたら、みなさんは屋内に待機してください。でも、僕は研究者だから(笑)」と荒木さんは言うのだが、その点、ちょっと雲を愛するあまり、危険な雲に近づきすぎる人が出てくるのではないかと心配になった。

ガストフロントの周囲にできる特徴的な雲「アーククラウド」の連続写真。積乱雲から弧状に広がっている。

「いや、それ逆です。実は、ふだんからこうやってレーダーを見て、なんか面白い雲が来るかもしれもないとチェックするようになれば、防災にもつながるかなと思っていまして。雲を愛でるのと、危険な雲を見分けるのは、裏表なんですよ」

 このあたりは、後でもうちょっと敷衍(ふえん)して教えてもらう必要がありそうだ。

 また、荒木さんが積乱雲(特にスーパーセル)の話題で、テンションが上がるというのも印象深かった。

 それは分からなくはないとぼくは思う。地表から立ち上がった上昇気流が、やがて高度15キロほどの対流圏を少し突き抜けて(オーバーシュート)、宇宙に向けた花を咲かすくらいのスケールの現象が目の前で起きるのが夏の積乱雲だ。まさに「雲の王」だ。

 その一方で、豪雨や落雷や竜巻などをもたらす雲でもある。

 荒木さん自身の研究テーマには、こういった積乱雲にまつわるものもひとつの軸として含まれている。それを次回、伺おう。

次回は「雲の王」、積乱雲について!

つづく

(このコラムは、ナショナル ジオグラフィック日本版サイトに掲載した記事を再掲載したものです)

荒木健太郎(あらき けんたろう)
1984年、茨城県生まれ。雲研究者。気象庁気象研究所予報研究部第三研究室研究官。「#関東雪結晶 プロジェクト」主宰。気象庁気象大学校卒業。地方気象台で予報・観測業務に従事した後、現職に至る。専門は雲科学・メソ気象学。防災・減災に貢献することを目指し、豪雨・豪雪・竜巻などの激しい大気現象をもたらす雲の仕組みと雲の物理学の研究に取り組んでいる。著書に『雲を愛する技術』(光文社新書)、『雲の中では何が起こっているのか』(ベレ出版)などがある。
ツイッターアカウント@arakencloudで雲の写真や情報を日々発信中。
川端裕人(かわばた ひろと)
1964年、兵庫県明石市生まれ。千葉県千葉市育ち。文筆家。小説作品に、『川の名前』(ハヤカワ文庫JA)、『天空の約束』(集英社文庫)、NHKでアニメ化された「銀河へキックオフ」の原作『銀河のワールドカップ』(集英社文庫)とその“サイドB”としてブラインドサッカーの世界を描いた『太陽ときみの声』(朝日学生新聞社)など。
本連載からは、ホモ・サピエンス以前のアジアの人類史に関する最新の知見をまとめた近著『我々はなぜ我々だけなのか アジアから消えた多様な「人類」たち』(講談社ブルーバックス)をはじめ、「睡眠学」の回に書き下ろしと修正を加えてまとめた『8時間睡眠のウソ。 日本人の眠り、8つの新常識』(集英社文庫)、宇宙論研究の最前線で活躍する天文学者小松英一郎氏との共著『宇宙の始まり、そして終わり』(日経プレミアシリーズ)がスピンアウトしている。
ブログ「カワバタヒロトのブログ」。ツイッターアカウント@Rsider。有料メルマガ「「秘密基地からハッシン!」」を配信中。