「別の時に、ガストフロントが研究所を直撃したことがありまして、そちらも動画を撮ってあります。風で建物がゆらゆらしたくらいですから、もう私、何を言ってるか分からないですね」
動画を見ながら、荒木さんは、自身で言う通り、興奮を隠せないのだった。
「これ、みなさんにもオススメしたいんですけど、パソコンで仕事をしている人などは、気象庁の高解像度降水ナウキャストなどの情報を開けるようにしておくといいですよ。なにかが近づいてくるぞと思ったら、外を見てみるとこういうのに出会えるかもしれません。私は、大気の状態が不安定な日には、だいたいいつもこうやってレーダーを見ていて、これは何か面白いものかもと思ったら雲が来るタイミングを見計らって屋上で張って、待ってますから」
もっとも、スーパーセルが来たなら、わざわざ外に出るのは推奨できない。台風の時に海に近づいて波を見ようとするのが危険なように、スーパーセルが通過する時に外出するのにも危険がともなう。
「近づいてきたら、みなさんは屋内に待機してください。でも、僕は研究者だから(笑)」と荒木さんは言うのだが、その点、ちょっと雲を愛するあまり、危険な雲に近づきすぎる人が出てくるのではないかと心配になった。

「いや、それ逆です。実は、ふだんからこうやってレーダーを見て、なんか面白い雲が来るかもしれもないとチェックするようになれば、防災にもつながるかなと思っていまして。雲を愛でるのと、危険な雲を見分けるのは、裏表なんですよ」
このあたりは、後でもうちょっと敷衍(ふえん)して教えてもらう必要がありそうだ。
また、荒木さんが積乱雲(特にスーパーセル)の話題で、テンションが上がるというのも印象深かった。
それは分からなくはないとぼくは思う。地表から立ち上がった上昇気流が、やがて高度15キロほどの対流圏を少し突き抜けて(オーバーシュート)、宇宙に向けた花を咲かすくらいのスケールの現象が目の前で起きるのが夏の積乱雲だ。まさに「雲の王」だ。
その一方で、豪雨や落雷や竜巻などをもたらす雲でもある。
荒木さん自身の研究テーマには、こういった積乱雲にまつわるものもひとつの軸として含まれている。それを次回、伺おう。

つづく
(このコラムは、ナショナル ジオグラフィック日本版サイトに掲載した記事を再掲載したものです)
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本連載からは、ホモ・サピエンス以前のアジアの人類史に関する最新の知見をまとめた近著『我々はなぜ我々だけなのか アジアから消えた多様な「人類」たち』(講談社ブルーバックス)をはじめ、「睡眠学」の回に書き下ろしと修正を加えてまとめた『8時間睡眠のウソ。 日本人の眠り、8つの新常識』(集英社文庫)、宇宙論研究の最前線で活躍する天文学者小松英一郎氏との共著『宇宙の始まり、そして終わり』(日経プレミアシリーズ)がスピンアウトしている。
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