筋道が見えたところで満足して、荒木さんの別の研究テーマに移ろうとしたところ、「ちょっと、もう一点」と補足された。

「『霜活』について話しておかないと」と笑う。

 なるほどそうだった。荒木さんは、冬、毎日のようにスマホで霜の結晶の写真を撮影して、ネットに上げている。それがまた美しい!

(写真クリックでフォトギャラリーへ)(写真提供:荒木健太郎)

 実はこれは、雪の結晶の観測と密接につながっている。

「関東で雪が降る機会って、やっぱりそう多くないんで、なかなか雪の結晶の観測ができないんですよ。だから、100円ショップでスマホ用のマクロレンズを買っても、使わずに過ごしてしまう方が多いので。そこで、霜活です。霜の結晶って、サイズ的に雪の結晶と同じぐらいなので、被写体として非常にいいんです。やっぱり、小さなものを撮るには多少、技術がいるし、いきなりだとなかなか難しいので」

 つまり、「霜活」とは、雪の結晶の観測のための「自主練」だったのだ。

 しかし、自主練は自主練だとしても、独自の美の世界を確立しているような気もする。朝日の中できらきら光る霜結晶は、輝かしくも清々しい。Twitter上で「#霜活」のハッシュタグで検索すると、多くの市民が美しい霜結晶の写真をアップしているのを眺めることができる。

「とがった葉っぱの先っちょに、植物の生命活動でできる水滴が凍結してとてもおもしろいんです。表面に模様ができたりして、自然の造形美というか。これ、朝陽がさして少し解けると、中で気泡が動くのが見えて、その気泡の部分で偏光して、虹色に見えるんですよ。解けゆくなかでのはかない輝きなので、朝陽がさして輝くわずかな時間をシンデレラタイムと呼んでいます(笑)」

(写真クリックでフォトギャラリーへ)(写真提供:荒木健太郎)

つづく

(このコラムは、ナショナル ジオグラフィック日本版サイトに掲載した記事を再掲載したものです)

荒木健太郎(あらき けんたろう)
1984年、茨城県生まれ。雲研究者。気象庁気象研究所予報研究部第三研究室研究官。「#関東雪結晶 プロジェクト」主宰。気象庁気象大学校卒業。地方気象台で予報・観測業務に従事した後、現職に至る。専門は雲科学・メソ気象学。防災・減災に貢献することを目指し、豪雨・豪雪・竜巻などの激しい大気現象をもたらす雲の仕組みと雲の物理学の研究に取り組んでいる。著書に『雲を愛する技術』(光文社新書)、『雲の中では何が起こっているのか』(ベレ出版)などがある。
ツイッターアカウント@arakencloudで雲の写真や情報を日々発信中。
川端裕人(かわばた ひろと)
1964年、兵庫県明石市生まれ。千葉県千葉市育ち。文筆家。小説作品に、『川の名前』(ハヤカワ文庫JA)、『天空の約束』(集英社文庫)、NHKでアニメ化された「銀河へキックオフ」の原作『銀河のワールドカップ』(集英社文庫)とその“サイドB”としてブラインドサッカーの世界を描いた『太陽ときみの声』(朝日学生新聞社)など。
本連載からは、ホモ・サピエンス以前のアジアの人類史に関する最新の知見をまとめた近著『我々はなぜ我々だけなのか アジアから消えた多様な「人類」たち』(講談社ブルーバックス)をはじめ、「睡眠学」の回に書き下ろしと修正を加えてまとめた『8時間睡眠のウソ。 日本人の眠り、8つの新常識』(集英社文庫)、宇宙論研究の最前線で活躍する天文学者小松英一郎氏との共著『宇宙の始まり、そして終わり』(日経プレミアシリーズ)がスピンアウトしている。
ブログ「カワバタヒロトのブログ」。ツイッターアカウント@Rsider。有料メルマガ「「秘密基地からハッシン!」」を配信中。