「外交のプロ」も右往左往

「適当な報道」で実害が出ましたか?

鈴置:日経・電子版の「日本、包囲網へ影響警戒」(12月14日)によると、外交のプロを自任する外務省も右往左往したようです。

 「米国は対話路線に転じた」などと誤解している暇は日本にないのです。極めて際どい状況にある今、一瞬たりとも状況を見誤ってはいけません。

ティラーソン講演を「対話に転換」とは読み違えなかった日本の専門家もいたとのことでしたが。

鈴置:安全保障の専門家、ことに米軍に近い一部の専門家です。彼らの間では「対話に転換」どころか「米国が戦争の決意を固め、最後の回避策を打ち出した」と緊張が走りました。

 国務長官の講演もそうですが、米国は非核化に関し一歩も譲歩していない。「核をカネで買う」とオブラートに包んでも、それを北朝鮮が受け入れる可能性は極めて低い。

 仮に受け入れても、交渉には時間がかかる。核施設の査察など、手続きを決めるのは容易ではない。北朝鮮が時間稼ぎに出れば、米国は空爆に出るでしょう。「時間切れ終了」です。

核をカネで買えるか

そもそも「核をカネで買う」なんてできるのですか?

鈴置:確かに、現実的な案とは言えません。核施設を破壊しても製造ノウハウは残りますから、北朝鮮がテロリストにそれを売るのを防ぐのは難しい。でも、米国はそんな頼りない案でも持ち出さざるを得なくなっているのです。

 このままだと戦争に突入する可能性が高い。開戦直前まで戦争を回避するため、あらゆる努力を続ける、ということでしょう。

 多くの人が死ぬ可能性があります。回避の努力もなしに戦争を始めたとなれば、後で非難されるのは見えています。世界からも、米国内からも。

 演説の中で、ティラーソン長官は何度も「お互いを知らないと合意もできないじゃないか」と呼び掛けています。その部分からは悲壮感も漂います。

  • first, I have to know who my counterpart is. I have to know something about them. I have to understand how do they process, how do they think. Because getting to an agreement, as all of us know, in negotiations means a willingness to talk about a lot of things.

 専門家の中には「これは太平洋戦争直前のハル・ノートだ」という人もいます。当時、ハル・ノートを日本が受け入れると米国側も思っていなかったでしょう。でも米国はそれを日本に送りました。

北朝鮮が受け入れないであろう「ハル・ノート」を突きつけた。米国は開戦の言い訳をつくっているのですか?

鈴置:その側面もある、との表現が正しいと思います。「ハル・ノート」で何らかの打開策が見つかれば一番よし。不幸にもそういかない時は「ハル・ノートで手を尽くした」と世界に説明できる――。両面あると思います。

次回に続く)

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孤立する韓国、「核武装」に走る

■「朝鮮半島の2つの核」に備えよ

北朝鮮の強引な核開発に危機感を募らせる韓国。
米国が求め続けた「THAAD配備」をようやく受け入れたが、中国の強硬な反対が続く中、実現に至るか予断を許さない。

もはや「二股外交」の失敗が明らかとなった韓国は米中の狭間で孤立感を深める。
「北の核」が現実化する中、目論むのは「自前の核」だ。

目前の朝鮮半島に「2つの核」が生じようとする今、日本にはその覚悟と具体的な対応が求められている。

◆本書オリジナル「朝鮮半島を巡る各国の動き」年表を収録

中国に立ち向かう日本、つき従う韓国』『中国という蟻地獄に落ちた韓国』『「踏み絵」迫る米国 「逆切れ」する韓国』『日本と韓国は「米中代理戦争」を闘う』 『「三面楚歌」にようやく気づいた韓国』『「独り相撲」で転げ落ちた韓国』『「中国の尻馬」にしがみつく韓国』『米中抗争の「捨て駒」にされる韓国』 に続く待望のシリーズ第9弾。2016年10月25日発行。