脅せば従う韓国人
韓国はTHAAD拒否に向かって雪崩を打っているのですね。
鈴置:ええ。7月に米韓がTHAADの配備を正式に決めた直後、人民日報の姉妹紙「環球時報」は「5つの対韓制裁」を発表しました(「『中国陣営入り』寸前で踏みとどまった韓国」参照)。
「環球時報」の英語版「Global Times」の記事「China can counter THAAD deployment」(7月9日)で読めます。
■環球時報が中国政府に建議した「5つの対韓制裁」
(1)THAAD関連企業の製品の輸入禁止
(2)配備に賛成した政治家の入国禁止と、そのファミリービジネスの中国展開の禁止
(3)THAADにミサイルの照準を合わせるなどの軍事的対応
(4)対北朝鮮制裁の再検討
(5)ロシアとの共同の反撃
THAADに関し「協力した韓国企業製品の輸入禁止」だけでなく「賛成した政治家の入国禁止」も明言しています。
訪中できなければ韓国の大統領はやっていけません。大統領選挙で「THAAD賛成」を明確に訴えられる政治家はまず、いないと思います(「『習近平のシカト』に朴槿恵は耐えられるか」参照)。
ただ、これまでは1つ問題がありました。政治家として「中国の報復が怖いからTHAADに反対する」とは言えなかったことです。
韓国人の多くも本音では「不愉快でも中国の言うことを聞くしかない」と思っています。意識調査を見ても「中国が最も重要だ」と答える人が「米国」と答える人を上回っているのです。
冒頭に引用した朝鮮日報の「中国に向けてろうそくを掲げられるか」(12月21日、韓国語版)に以下のくだりがあります。
- 中国は我々を「強く出れば頭を下げる民族」として扱う。「歴史的に統一した中国に対し、韓国はただの一度も抗ったことがない」ということだ。
- 「中国側に立てば10倍の褒美をやるというのに、なぜ、中国に反旗を翻し10倍の罰を受けるのか」ということでもある。
2匹目の「ドゥテルテ」
「脅せば言うことを聞く」と、中国にすっかり見切られていますね。
鈴置:だからこそ、韓国の政治家は「中国の報復を避けるためTHAADは拒否しよう」との本音は言いにくかった。
それが朴槿恵(パク・クンヘ)大統領の弾劾騒動で「THAAD反対」の言い訳ができたのです(「『キューバ革命』に突き進む韓国」参照)。
「朴のやったことはすべて悪い」との雰囲気が盛り上がる中、離米派は「あれは『朴印』の政策だから反対する」と言えばいいのです。「従中派」のレッテルを張られず「従中」できるようになったのです。
「離米派」と中国の共闘が始まったのですね。
鈴置:その通りです。中国が報復カードをちらつかせるほどに「離米派」の票は増える。それにより「離米派」の大統領が誕生すれば、韓国は自動的に「従中」する。明快な共闘の構図です。
中国は目を細めて韓国のドゥテルテ(Rodorigo Duterte)たち――米軍は出て行けと叫ぶフィリピンの大統領――を眺めているでしょう。
「離米」に警告したトランプ側近
米国はどうするつもりでしょうか。
鈴置:12月20日になって、トランプ(Donald Trump)次期政権から「見解」が明かされました。国家安全保障問題担当の大統領補佐官に就任する予定のフリン(Michael Flynn)元陸軍中将が韓国の外交部と国防部の高官に以下のように語りました。
東亜日報の「フリン次期国家安保補佐官、在韓米軍とTHAAD配備は韓米同盟の正しい決定」(12月22日、日本語版)から引用します。
- 米軍とTHAADの(韓国への)配備は、韓米同盟次元の正しい決定であり、韓米同盟の堅固さを象徴するものだ。
もちろん「在韓米軍を追い出したり、THAAD配備を拒否したら米韓同盟がなくなると思えよ」という意味です。韓国に広がる「離米ムード」に警告したのです。
ズバリ、言いましたね。
鈴置:でも、米国とスクラムを組む政治家が出てきそうにないのも事実です。中国と共闘したがる政治家はいっぱいいるのに。
「親米派」の国民もいるのでは?
鈴置:もちろん残っています。「親中政権ができたら移民する」という人もいます。親米クーデターを考える人も出てきました。
※2017年は1月1日付で「2017年の日韓関係を占う」記事を掲載します。リンクはこちら

■「朝鮮半島の2つの核」に備えよ
北朝鮮の強引な核開発に危機感を募らせる韓国。
米国が求め続けた「THAAD配備」をようやく受け入れたが、中国の強硬な反対が続く中、実現に至るか予断を許さない。
もはや「二股外交」の失敗が明らかとなった韓国は米中の狭間で孤立感を深める。
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