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北の核武装に協力する南

そこで「使い走り」の韓国も制裁緩和を唱えた。

鈴置:その通りです。10月中旬に欧州を訪れた文在寅(ムン・ジェイン)大統領は仏、英、独などの首脳と会談しては強引な理屈をこねて対北制裁をやめさせようとしました。青瓦台(大統領府)は「ローマ法王訪朝」というフェークニュースまで流しました(「北朝鮮と心中する韓国」参照)。

 もちろん欧州各国は制裁緩和要求を拒否しました。文在寅大統領は「北朝鮮の核武装に協力する奇妙な指導者」として認識されるようになりました。

 文在寅大統領は9月の訪米でも北朝鮮の代弁を繰り返したため、米メディアから「金正恩の首席報道官」と揶揄されていました(「『北朝鮮の使い走り』と米国で見切られた文在寅」参照)。それを上塗りしたのです。

 12月4日にオークランドで開かれたNZ・韓国首脳会談後の会見で冒頭、アーダーン(Jacinda Ardern)首相は以下のように語りました。

・北朝鮮がCVID(Complete, Verifiable, Irreversible Denuclearization=完全で検証可能、不可逆的な非核化)を実行するよう希望する。
・太平洋の安全と朝鮮半島に最善を尽くすために、国連制裁を順守する。

 制裁緩和を求める文在寅大統領を封じ込めた格好でした。朝鮮日報も「NZ総理、文大統領の前で『北はCVIDに応じよ…制裁を続けてこそ』」(12月5日、韓国語版)の見出しで報じました。

 本来、韓国が説いて回らねばならぬCVIDを、外国の首脳から説教されるに至ったのです。韓国は北朝鮮の核武装を幇助し、南北共同の核を目指していると世界の専門家から見なされるに至りました。

最後は物理的手段

南北朝鮮はなぜ、「米国を騙せた」と勘違いしたのですか。

鈴置:これまで5度も世界を騙すのに成功したからです。それにトランプ大統領が「金正恩委員長とはいい関係にある」などとツイッターなどで持ち上げたのを見誤ったのです。

 誰が聞いても褒め殺しです。「いい関係にある」とは「俺の言うことを聞かなければ悪い関係になる――殴り殺すぞ」ということなのですから。

 ただ、朝鮮人――コリアンは「親しくなればどれだけ甘えてもいい」と考えます。米国の大統領が「いい関係」と言ってくれたのだから非核化しなくても制裁を緩めてくれる、と思い込んだのでしょう。

 米国もその誤解を解こうとしたフシがあります。12月14日の東京でのセミナーで、金聖玟代表が明かしました。

 米国の国家安全保障会議(NSC)アジア上級部長を務めるポッテンジャー(Matthew Pottinger)氏が7月、金聖玟代表に以下のように語ったそうです。

  • トランプ(Donald Trump)大統領は北朝鮮の意図を知らずに軍事演習中止措置をとったのではない。北朝鮮の終戦宣言と平和協定要求がワナであることも分かっている。北は平和協定締結を通じ核保有国の地位を合法化し、米韓同盟を分裂させ、ひいては北朝鮮主導の統一を夢見ている。

  • 同時に北朝鮮による挑発が起きた時、米軍の韓国支援が法的に制限できること、在韓米軍撤収まで念頭に置いていることも(トランプ大統領は)理解している。

  • 金正恩が優れた交渉者であるなら、非核化で意味のある何かを見せなければならない。金正恩も国際関係の最後の手段には物理的手段があると言うことを分かっているはずだ。

●非核化の約束を5度も破った北朝鮮
▼1度目=韓国との約束▼
・1991年12月31日南北非核化共同宣言に合意。南北朝鮮は核兵器の製造・保有・使用の禁止、核燃料再処理施設・ウラン濃縮施設の非保有、非核化を検証するための相互査察を約束
→・1993年3月12日北朝鮮、核不拡散条約(NPT)からの脱退を宣言
▼2度目=米国との約束▼
・1994年10月21日米朝枠組み合意。北朝鮮は原子炉の稼働と新設を中断し、NPTに残留すると約束。見返りは年間50万トンの重油供給と、軽水炉型原子炉2基の供与
→・2002年10月4日ウラニウム濃縮疑惑を追及した米国に対し、北朝鮮は「我々には核開発の資格がある」と発言
→・2003年1月10日NPTからの脱退を再度宣言
▼3度目=6カ国協議での約束▼
・2005年9月19日6カ国協議が初の共同声明。北朝鮮は非核化、NPTと国際原子力機関(IAEA)の保証措置への早期復帰を約束。見返りは米国が朝鮮半島に核を持たず、北朝鮮を攻撃しないとの確認
→・2006年10月9日北朝鮮、1回目の核実験実施
▼4度目=6カ国協議での約束▼
・2007年2月13日6カ国協議、共同声明採択。北朝鮮は60日以内に核施設の停止・封印を実施しIAEAの査察を受け入れたうえ、施設を無力化すると約束。見返りは重油の供給や、米国や日本の国交正常化協議開始
・2008年6月26日米国、北朝鮮のテロ支援国家の指定解除を決定
・2008年6月27日北朝鮮、寧辺の原子炉の冷却塔を爆破
→・2009年4月14日北朝鮮、核兵器開発の再開と6カ国協議からの離脱を宣言
→・2009年5月25日北朝鮮、2回目の核実験
▼5度目=米国との約束▼
・2012年2月29日米朝が核凍結で合意。北朝鮮は核とICBMの実験、ウラン濃縮の一時停止、IAEAの査察受け入れを約束。見返りは米国による食糧援助
→・2012年4月13日北朝鮮、人工衛星打ち上げと称し長距離弾道弾を試射
→・2013年2月12日北朝鮮、3回目の核実験