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2017年12月に実施された米韓の合同空軍演習「Vigilant Ace」訓練中、京畿道平沢市在韓米空軍烏山基地の上空を飛行する米国の電子戦機EA-18G(写真:YONHAP NEWS/アフロ)

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 米朝合意が崩れた。朝鮮半島に再び緊張感が走る。

核を捨てない北朝鮮

鈴置:2018年6月12日にシンガポールで米朝首脳会談が開かれ、両国の関係改善が謳われました。北朝鮮が核を放棄する代わりに、米国は北朝鮮の体制存続を認めることでも合意しました。

 しかしこの取引は、雲散霧消しました。北朝鮮は核を放棄するつもりなどなく、それを米国も認識したからです。

 米朝首脳会談後、北朝鮮から漏れてくる情報は共通していました。北の当局が「米国を騙すことができた。核を放棄するフリをしてカネを得ることができる」と国民に説明しているというのです。

 北朝鮮は過去何度も世界を騙すのに成功してきましたから、国民はそれを信じ「経済制裁が解除され、生活が楽になる」と期待を高めました。ところが米国は制裁を緩めない。

 そこで金正恩(キム・ジョンウン)政権は経済制裁は簡単に解けないと国民に説明し「自力更生」を訴える作戦に転じました。国民の失望が自らへの怒りに転化するのを恐れたのです。

9月から「自力更生」運動

 自由北韓放送(本部・ソウル)の金聖玟(キム・ソンミン)代表は「2018年9月10日から北当局は国民の学習会を通じ『自力更生』『自給自足』を強調し始めた」と言います。

 金聖玟代表は北朝鮮を脱出した後、韓国で北朝鮮の民主化を目指す、北向け放送の自由北韓放送を主宰しています。内部に多くの情報源を持ち、早くて正確な北朝鮮情報に定評があります。

 2018年12月14日、日本の「北朝鮮による拉致被害者家族連絡会」などが参議院議員会館で開いた国際セミナーで語りました。韓国語ですが、日本語に逐次通訳されました。動画はここで視聴できます。

 朝鮮労働党出版社が学習会配布用に作成した「学習提綱・自力更生、自給自足のスローガンを高く掲げ前進することについて」という題目の資料も、9月に日本の専門家に伝えられています。

 状況証拠からも、転換点が2018年9月だったことは明らかです。米朝首脳会談以降、北朝鮮とその代弁者である韓国は米国に対し、終戦宣言を出すよう要求していました。それが9月の国連総会の頃から要求を制裁緩和に切り替えました。

 終戦宣言は在韓米軍撤収、さらには米韓同盟廃棄を要求するための伏線です。米国の軍事的な圧迫を取り除くために北朝鮮が仕掛けた大技です。

 ただ制裁が続いたままだと、この大技が決まる前に人民の反乱が起きかねない。「シンガポールの首脳会談で米国を騙すのに成功した」と国民に誇り、期待感を持たせたのが裏目に出たのです。