「平和愛好国家」を自称する金正恩

文在寅大統領はなぜ、そんな発言をしたのでしょうか。

鈴置:北朝鮮は「自分を核保有国として認めよ」と言い出しました。先ほど引用した朝鮮通信の「大陸間弾道ロケット『火星15』型試験発射成功――朝鮮政府声明」も、最後の結論部分でそう主張しました。翻訳します。

  • 我が国家の利益を侵害しない限り、どんな国であろうと地域であろうと脅威にはならないことをいま一度、厳粛に声明するものである。
  • 朝鮮民主主義人民共和国は責任ある核強国であり、平和愛好国家として世界の平和と安定を守護するための崇高な目的の実現のために、自らのあらゆる努力を傾けることであろう。

平和愛好国家、ですか!

鈴置:爆笑モノです。北朝鮮はテロを繰り返し、日米韓を先制核攻撃すると脅しています(「米中は金正恩を『アジアのムガベ』にできるか」参照)。

 そんな国が「平和愛好国家」として「世界の平和を守るために努力する」と言いだしたのですから。犯罪集団による「平和攻勢」です。

トランプこそが平和の敵だ

トランプ(Donald Trump)大統領も韓国国会で、テロ、誘拐など北朝鮮の国家犯罪を列挙したばかりです。

鈴置:あの演説には北朝鮮は相当に困惑したと思います。すべて真実で、反論しようにもできないのですから(「トランプ大統領の韓国国会演説のポイント(1)」参照)。

■トランプ大統領の韓国国会演説(2017年11月8日)のポイント(1)

北朝鮮の人権侵害を具体的に訴え

  • 10万人の北朝鮮人が強制収容所で強制労働させられており、そこでは拷問、飢餓、強姦、殺人が日常だ
  • 反逆罪とされた人の孫は9歳の時から10年間、刑務所に入れられている
  • 金正恩の過去の事績のたった1つを思い出せなかった学生は学校で殴られた
  • 外国人を誘拐し、北朝鮮のスパイに外国語を教えさせた
  • 神に祈ったり、宗教書を持つクリスチャンら宗教者は拘束、拷問され、しばしば処刑されている
  • 外国人との間の子供を妊娠した北朝鮮女性は堕胎を強要されるか、あるいは生んだ赤ん坊は殺されている。中国人男性が父親の赤ん坊を取り上げられたある女性は「民族的に不純だから生かす価値がない」と言われた

北朝鮮の国際的な無法ぶりを例示

  • 米艦「プエブロ」の乗員を拿捕し、拷問(1968年1月)
  • 米軍のヘリコプターを繰り返し撃墜(場所は軍事境界線付近)
  • 米偵察機(EC121)を撃墜、31人の軍人を殺害(1969年4月)
  • 韓国を何度も襲撃し指導者の暗殺を図った(朴正煕大統領の暗殺を狙った青瓦台襲撃未遂事件は1968年1月)
  • 韓国の艦船を攻撃した(哨戒艦「天安」撃沈事件は2010年3月)
  • 米国人青年、ワームビア氏を拷問(同氏は2016年1月2日、北朝鮮出国の際に逮捕。2017年6月に昏睡状態で解放されたが、オハイオに帰郷して6日後に死亡)

「金正恩カルト体制」への批判

  • 北朝鮮は狂信的なカルト集団に支配された国である。この軍事的なカルト集団の中核には、朝鮮半島を支配し韓国人を奴隷として扱う家父長的な保護者として指導者が統治することが宿命、との狂った信念がある

 しかし北は、どんなに笑われようと「平和愛好国家」と言い張るしかない。「ならず者」として米国に処刑される可能性がどんどん高まっているからです。

 確かに、北朝鮮にとって都合のいい声も出ています。米国は冷戦中にソ連や中国と「核の均衡」をとった。同様に北朝鮮の核も認めよ、との意見です。

 日本でもそう言い出す人が出ています。しかし、世界中が「ならず者」の烙印を押したら、そんな声はしぼみます。

 前々回にも説明したように「ならず者」とは「核の均衡」、専門用語で言えば「相互確証破壊」(MAD=Mutual Assured Destruction)が成立しないのです。そこが北朝鮮とソ連・中国とが決定的に異なる点です。

北朝鮮がいくら「平和愛好国家」を自称しても、信じる人は世界にいないのでは?

鈴置:そこで韓国の出番となるのです。もし、当事者である韓国が米国を「戦争愛好国家」と決めつけたうえ「米国が先制攻撃しそうだから韓国・平昌(ピョンチャン)での冬季五輪が開けない」などと言い出したら、どうなるでしょうか?

 「金正恩も危ない奴だが、トランプも同じだ」と考える人が出るでしょう。すでに中国とロシアはその視点で語っています。ケンカ両成敗式に「戦争はやめろ」「米国は先制攻撃するな」との国際世論が盛り上がるかもしれません。

 文在寅大統領の発言はこれを狙っている、と韓国の保守は見ているのです。そうなったら北朝鮮の思うつぼです。