後進国を超えたはずだ

ではなぜ今回、韓国人はそんなに怒ったのでしょうか。

鈴置:韓国人は「今度こそ、そんな不正は起きない」との期待を抱いていた。それを朴大統領によって裏切られたからです。

 「朴大統領はすべての近親と絶縁しているから不正は起きようがない」と信じていたのです。結局は親戚の代わりに40年来の友人が不正の温床になったのですけれど。

 注目すべきは「期待の源泉」が朴大統領だけではなかったことです。2010年頃から韓国人は「大韓民国は世界に冠たる立派な国になった」との強烈な自信を持つようになった。その自信が大いに裏切られたのです。

 デモに参加した人は口々に「これでも国か」と叫んでいます。10年前だったら「我が国はこの程度の水準だ」と自虐的に眺めた事件でも「一流国家」になった以上、許せないのです。

 朝鮮日報の朴正薫(パク・ジョンフン)論説委員――東京特派員の経験もある記者が、象徴的なコラムを書いています。「すべてが大統領だけのせいなのだ」(11月25日、韓国語版)です。記事のポイントを訳します。

  • 私たちは先進国のとば口まで来たと思っていた。経済力はもちろん、国家の風格も文化水準も開発途上国を超えたと信じていた。それが崩れた。
  • 影の権力者の暗躍、政権の恐喝、特権層のやりたい放題……。すべてが後進国の病だ。この惨憺たる実相を前にしても先進国をうんぬんするのなら、厚かましいことこの上もない。
  • 先進国にも不正と非理はある。しかし、腐敗が片隅にでも生まれれば、誰かがホイッスルを吹く。我々の場合、崔氏一党がひっかき回している最中、誰も警戒音を鳴らさなかった。

異様な高揚期に

なるほど。韓国人は「先進国になった!」と信じていたのですね。

鈴置:今回の騒ぎを理解するには、まずそれを知る必要があります。2008年の世界同時不況を韓国はうまく切り抜けた。1997年に通貨危機に陥り、IMF(国際通貨基金)に救済された時とは様変わりでした。

 GDPも世界で10位近くの規模に膨らみ「統一すれば世界で5位の経済力を持つ」との見方が広がりました。1人当たりGDPでも日本に追いつきそうになりました。

 国際政治の場でも「日本を超えた」と韓国人は確信しました。民主党時代の日本は米国とも中国とも関係を悪化させた。反対に韓国人は、自分は米中双方と極めて良好な関係を築いたと信じたのです。

 李明博(イ・ミョンバク)政権時代の話ですが、G20と核セキュリティ・サミットを2010年と2012年に、いずれも日本よりも先に主催しました。

 2010年頃から韓国メディアには「一流国家韓国」「世界で尊敬され称賛される韓国」「日本を超えた韓国」との言説が溢れ返るようになりました。

 韓国は精神の高揚期に入ったのです。史上初のことでしょう。朴槿恵政権が「米中を後ろ盾に日本と北朝鮮を叩く」外交を展開したのも、こうした背景があったからです。

韓国の主な「卑日」
「従軍慰安婦」像設置
2011年12月14日、韓国挺身隊問題対策協議会がソウルの日本大使館前に「従軍慰安婦」像を設置。日本政府が抗議したが、ソウル市と韓国政府は無視。その後、韓国と米国の各地に相次ぎ設置された。「像」以外に「碑」も世界中で立てられている。2014年1月には仏アングレームの国際漫画祭で、韓国政府主導の慰安婦をテーマにした企画展が開催。
大統領の竹島上陸
2012年8月10日、李明博大統領が竹島に上陸。日本政府は抗議し駐韓日本大使を一時帰国させた。同月13日これに関連、李大統領は「日本の影響力も昔ほどではない」と発言。同月17日、野田佳彦首相がこの問題に関し親書を李大統領に送るが、同月23日に韓国政府は郵便で送り返した。
天皇謝罪要求
2012年8月14日、李大統領が天皇訪韓について「独立運動をした人に心から謝罪をするのならともかく(昭和天皇が使った)『痛惜の念』だとか、こんな言葉1つなら、来る必要はない」と発言。
対馬の仏像窃盗
2012年10月8日、韓国人が対馬の仏像と教典を盗んだ。2013年1月に韓国の警察が犯人の一部を逮捕、仏像2体を回収。しかし韓国・大田地裁は「韓国から盗まれた可能性がある」と日本に返さず。2015年7月18日に1体だけ日本に返還。
中国人放火犯の本国送還
2013年1月3日、ソウル高裁が靖国神社放火犯の中国人を政治犯と認定、日本に引き渡さない決定を下した。日本政府は日韓犯罪人引渡条約をたてに抗議。犯人は2011年12月26日の靖国放火の後、2012年1月8日にソウルの日本大使館に火炎瓶4本を投げ、逮捕されていた。
朴大統領の「告げ口外交」
2013年2月の就任似来、朴槿恵大統領は世界の首脳やメディアに会うたびに、安倍晋三首相の「歴史認識」など日本を批判。
産経元支局長起訴
2014年10月8日、ソウル中央地検が産経新聞の加藤達也元ソウル支局長を在宅起訴。容疑は「大統領に関し虚偽の事実を報じ、名誉を棄損した」。報道の元となった朝鮮日報の記事に関してはおとがめなし。同年8月7日からの加藤元支局長への出国禁止措置は2015年4月14日に解除。同年12月17日に無罪判決、同月に確定。
安倍首相の米議会演説阻止
2015年2月に聯合ニュースが「在米韓国人、演説阻止へ」と報道以降、韓国は大統領、外相、国会議長、学者らが世界の要人を対象に、同年4月の安倍首相の米議会演説を阻止する運動を展開した。阻止できないと判明後は、演説に慰安婦への謝罪を盛り込ませるよう米国に要求した。メディアも連日、阻止キャペーンを張った。韓国の国を挙げての筋違いで執拗な要求に、米政界では「韓国疲れ」という言葉が使われた。