戦争を避けるクーデター

いよいよ、戦争ですか?

鈴置:米国がその覚悟を固めたことは明らかです。北朝鮮を、雑居ビルに立てこもって通行人に銃を乱射するカルト集団と認定したのです。武器を捨て、両手を上げて出て来ない限り、小屋ごと爆破することになります。

でも、金正恩委員長は核を捨てるつもりはない。

鈴置:その通りです。習近平主席が11月17日に送った特使にも会いませんでした。例え話を続けるなら、ビルの大家さんの説得も無視し、徹底抗戦を宣言したのです。

やはり、戦争ですね。

鈴置:それを避ける道があります。カルト集団の中堅幹部がボスから銃を取り上げるか、あるいはボスを射殺して投降するか、です。要はクーデターか暗殺です。

 米国も戦争はしたくない。悲惨な結果が見えているからです。先制攻撃すれば、米国や日本の被害を最小化しつつ、北朝鮮の核関連施設を破壊できるとされています。ただ、そのためには核兵器――少なくとも戦術核を使う必要がある、と専門家は見ます。

戦術核は最低、使う

核まで使うのですか?

鈴置:普通の人は皆、驚いてそう聞いてきます。しばしば「ピンポイント攻撃」という、限定的な戦闘をイメージさせる単語が使われているからでしょう。

 実際、シリアやアフガンで米国が敵の重要施設を破壊する時は、巡航ミサイルやドローンを使って「ピンポイント攻撃」し、民間人の被害を減らしています。

 しかし北朝鮮はアフガンとは完全に異なります。核武装しているのです。米国が先制攻撃した瞬間、核弾頭を搭載した弾道弾を撃って反撃してきます。

 弾道弾の多くは地下サイロに隠されています。上空から赤外線センサーを使ってその大まかな位置は割り出せますが、完全には絞り込めません。そこで広範囲な地域を壊滅できる戦術核を使うのです。

 日本人は「核まで使うのか」と驚きますが、米軍は「戦術核」と「通常兵器」の間に線を引かないのだそうです。全面戦争を引き起こす「戦略核」と、そこまでは至らない「戦術核・通常兵器」という区分があるに過ぎないと専門家は言います。

 ただ、トランプ大統領が国連演説で「完全に破壊する」(totally destroy)と述べました。この言い方から、戦略核を使う可能性もあると見る人もいます。

 8月29日と9月15日の弾道弾は首都、平壌(ピョンヤン)の順安(スナン)空港から発射されました。「移動式発射台を使えば、平壌を含めどこからでも核ミサイルを撃てるぞ。多くの非戦闘員が住む平壌も核で先制攻撃する根性があるか」と米国に凄んで見せたのです。

 それに対しトランプ大統領は「完全に破壊」との言葉を使うことで「どこだろうと、何だって使ってやってやるぞ」と言い返したというわけです。平壌市内を動き回る発射台を殲滅するには戦術核ではなく、戦略核が要るのです。

北はすでに「先制核攻撃」宣言

本当に、米国は核も使う先制攻撃に踏み切れるのでしょうか。

鈴置:北朝鮮に対してならやるでしょう。北朝鮮は2016年ごろから米国や韓国に対する先制核攻撃を公言してきました(「朴槿恵は『北爆』を決意できるのか」参照)。

 日本に対しても2017年9月13日、朝鮮中央通信が「日本列島の4つの島を核爆弾で海中に沈める」と威嚇しました。

 先制核攻撃されても、北朝鮮は文句を言えないのです。トランプ政権も「先制核攻撃するぞ」と威嚇する国を許しません。

 大統領自身が韓国国会演説で「我々は米国と同盟国への威嚇と攻撃を許さない。米国の都市を破壊するとの脅迫を許さない」「我々は身を守るためには戦うし、死も恐れない」と言い切っています(「トランプ大統領の韓国国会演説のポイント(2)」参照)。

■トランプ大統領の韓国国会演説(2017年11月8日)のポイント(2)

「戦争を辞さず」と決意表明

  • 朝鮮半島周辺海域にF35とF18を搭載した3隻の巨大な空母が、適切な海域には原潜が展開中だ。私は力を通じた平和を求める
  • 北朝鮮の政権はこれまでの米国の抑制を弱さと見なしてきた。決定的に誤った判断である。現政権は過去の米国とはまったく異なるのだ
  • 米国は紛争や対立を望まないが、それから逃げはしない。米国の決意を愚かにも試してうち捨てられた数々の政権が歴史には満ちている
  • 我々は米国と同盟国への威嚇と攻撃を許さない。米国の都市を破壊するとの脅迫を許さない。我々は史上最悪の残虐な行為がこの地で繰り返されるのを許さない。我々は身を守るためには戦うし、死も恐れない

「北朝鮮と戦おう」と世界に呼び掛け

  • この地に――自由で繁栄する韓国の心臓部に私が来たのは、世界の自由を愛する国々に1つのメッセージを伝えるためだ
  • それは、見逃す時が終わったということだ。今や力の時である。平和を求めるのなら、常に力強く立ち上がらねばならない。核による荒廃をもって脅迫する、ならず者政権の脅威に世界は寛容ではありえない
  • すべての責任ある国家は北朝鮮という野蛮な政権を孤立させ、いかなる形であってもそれを否定せねばならない。支持しても、与えても、受け取ってもならない
  • 中国とロシアを含む、すべての国に呼び掛ける。国連安全保障理事会の決議を完全に履行し、北朝鮮の政権との外交関係を格下げし、貿易と技術に関わるすべての関係を断ち切らねばならない
  • この危険に、ともに立ち向かうことは我々の責任であり義務である。なぜなら我々が手をこまねくほどに危険は増し、選択肢が少なくなるからだ。この脅威に対し見て見ぬふりをする国は、つまり脅威をいっそう高める国は、自身の良心にこの危機の重みを問わねばならない