北朝鮮兵が韓国に亡命する事件が発生。兵士が境界線を越える映像が公開された(写真:AP/アフロ)

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 金正恩(キム・ジョンウン)委員長はジンバブエのムガベ大統領の末路をたどるのだろうか。

「イスラム国」と同列

北朝鮮の兵士が韓国に亡命しました。

鈴置:兵士は板門店(パンムンジョン)のJSA(共同警備区域)を走って南側に駆け込みました。ハンギョレの「映像・北朝鮮、軍事境界線を越えて銃撃……停戦協定に2回違反」(11月22日、韓国語版)などで、動画を見ることができます。

 北朝鮮の枯野の一本道を飛ばすジープ型自動車。車がJSAに到着すると、北側の警備兵が慌てて走り出す。何かにはまり込んで動けなくなった車。そこから飛び出て南側に走り出す兵士。背後から狙い撃ちする警備兵。南側に少し入ったところで撃たれて倒れ込んだ亡命兵士。そこまで匍匐前進で近づき、引きずって救出した南の2人の兵士……。

 スパイ映画のスリリングな1シーンを見るようです。が、これはすべて現実です。冷戦時代を生きた人は、ベルリンの壁を東から西に越えようとして撃たれた市民を思い出したでしょう。

 この映像の公開により、世界の人は北朝鮮という国の異様さに改めて思い至りました。事件発生は11月13日。映像を公開したのが9日後の11月22日。

 ちょうど米国が世界に向け「金正恩政権は危険な、ならず者集団だ。放置すれば世界が危機に瀕する」と訴えている最中でした(「金正恩に『ならず者の烙印』を押すトランプ」参照)。

●金正恩に「ならず者の烙印」を押すトランプ(2017年)
9月19日 国連演説で邪悪(wicked)な北朝鮮と戦うよう、世界に呼び掛け
11月6日 日本で拉致被害者家族らと面会「拉致はとんでもない行為だ」
11月8日 韓国国会演説で北朝鮮の人権侵害と対外テロなど非道ぶりを列挙
11月9日 米中首脳会談後の会見で「北朝鮮が向こう見ずで危険な道を放棄するまで経済的圧力を強める必要があるとの認識で一致した」と強調
11月15日 帰国後の会見で「習近平主席も『北朝鮮の核は中国にとって極めて深刻な脅威だ』と認識している」「我々は『凍結対凍結』は受け入れないことで合意した」
11月20日 「テロ支援国家」指定発表の席で「北朝鮮は世界を核で廃墟にすると脅し、何度も外国での暗殺を含む国際テロを支援してきた」

 9月19日のトランプ大統領の国連演説では北朝鮮を国家と見なさず「金政権」(Kim regime)と呼んで「イスラム国」(IS)と同列に扱いました。11月8日の韓国国会演説でも「狂信的なカルト集団」と規定しました(「トランプ大統領の韓国国会演説のポイント(1)」参照)。

■トランプ大統領の韓国国会演説(2017年11月8日)のポイント(1)

北朝鮮の人権侵害を具体的に訴え

  • 10万人の北朝鮮人が強制収容所で強制労働させられており、そこでは拷問、飢餓、強姦、殺人が日常だ
  • 反逆罪とされた人の孫は9歳の時から10年間、刑務所に入れられている
  • 金正恩の過去の事績のたった1つを思い出せなかった学生は学校で殴られた
  • 外国人を誘拐し、北朝鮮のスパイに外国語を教えさせた
  • 神に祈ったり、宗教書を持つクリスチャンら宗教者は拘束、拷問され、しばしば処刑されている
  • 外国人との間の子供を妊娠した北朝鮮女性は堕胎を強要されるか、あるいは生んだ赤ん坊は殺されている。中国人男性が父親の赤ん坊を取り上げられたある女性は「民族的に不純だから生かす価値がない」と言われた

北朝鮮の国際的な無法ぶりを例示

  • 米艦「プエブロ」の乗員を拿捕し、拷問(1968年1月)
  • 米軍のヘリコプターを繰り返し撃墜(場所は軍事境界線付近)
  • 米偵察機(EC121)を撃墜、31人の軍人を殺害(1969年4月)
  • 韓国を何度も襲撃し指導者の暗殺を図った(朴正煕大統領の暗殺を狙った青瓦台襲撃未遂事件は1968年1月)
  • 韓国の艦船を攻撃した(哨戒艦「天安」撃沈事件は2010年3月)
  • 米国人青年、ワームビア氏を拷問(同氏は2016年1月2日、北朝鮮出国の際に逮捕。2017年6月に昏睡状態で解放されたが、オハイオに帰郷して6日後に死亡)

「金正恩カルト体制」への批判

  • 北朝鮮は狂信的なカルト集団に支配された国である。この軍事的なカルト集団の中核には、朝鮮半島を支配し韓国人を奴隷として扱う家父長的な保護者として指導者が統治することが宿命、との狂った信念がある

 11月20日(米国東部時間)の「テロ支援国家」再指定は、その総仕上げでした。その直前に、思いもかけず亡命事件が発生。米国は「烙印」にダメ押しできたのです。