公安検事出身のタカ派首相

「弾劾」で、どれほど時間稼ぎできるのでしょうか。

鈴置:2004年3月12日、当時の盧武鉉大統領の弾劾訴追が国会で可決されました。憲法裁判所はそれを同年5月14日に棄却しました。憲法裁判所の審査は最長で180日ですが、この時は2カ月で終わったわけです。

 ただ今回、野党にはもう1つ処理すべき問題があります。国会が弾劾を決議した瞬間、黄教安(ファン・ギョアン)首相が大統領権限代行になることです。

 この人は公安検事出身でタカ派です。「そんな人が大統領の権限を握ったら、何をされるか分からない」と怯える政治家も多いのだそうです。

 野党としては弾劾する前に、何とかして首相を「中立的な人」に交代させたいところです。が、そんなことをしていればますます時間を浪費してしまうのです。

 先に紹介した聯合ニュースの「青瓦台、退陣前提の国会による首相推薦はNO…『黄首相ジレンマ』で野党を圧迫」(11月21日、韓国語版)。

 見出しの「『黄首相ジレンマ』で野党を圧迫」とは、「タカ派首相」の続投が懸念材料となって野党が弾劾を進めにくいことを指しているのです。

 それに弾劾で辞任を先延ばしするうちに、ひょっとすると大事件が起きて「大統領弾劾」など雲散霧消するかもしれません。

「大統領が戒厳令を準備」

例えば?

鈴置:2010年の延坪島(ヨンピョンド)砲撃事件のように北朝鮮が挑発してくるかもしれません。韓国空軍が挑発の根拠地を空爆すれば、紛争が一気に拡大します。「大統領弾劾」どころではなくなります。

 あるいは、退陣を求めるデモ隊が青瓦台になだれ込んだとします。警備にあたる軍は武器を使用するかもしれません。当然、国民は反発し、デモが過激化するでしょう。そうなれば集会や政治活動を禁止する戒厳令を布く名分が得られます。

やはり、戒厳令ですか!

鈴置:現時点では考えにくい。しかし11月18日に「共に民主党」の秋美愛代表が「朴大統領は自身の支持者が(退陣デモとの間で)衝突を起こすよう準備している。戒厳令を準備しているとの情報もある」と公の席で語りました。

 秋美愛代表がどこまで本気で言っているかは怪しい。翌11月19日に初登場の「大統領支持デモ」を牽制するため「戒厳令」に言及したのだと私は思います。しかし、多くの人が「下手すると戒厳令だな」と危惧しているからこそ、こんな発言が飛び出すのです。