与党からも「弾劾しかない」

弾劾はどう進むのですか?

鈴置:まず、国会議員300人のうち200人が弾劾訴追に賛成する必要があります。野党と野党系の無所属議員が171人いるので、与党から29人の賛成票が出れば国会は通ります。

 与党、セヌリ党の中にも、朴大統領と距離を置いてきた「非朴」議員がいます。このリーダー格が金武星(キム・ムソン)前セヌリ党代表で、11月13日に「唯一の収拾策は大統領弾劾だ」と語っています。これもあって韓国では「国会は通るだろう」との見方が多い。

 国会が弾劾を決めれば、今度は憲法裁判所が弾劾訴追は合憲か否かを審査し180日以内に判断を下します。9人の判事中、6人が弾劾を合憲と認める必要があります。

 ほとんどの判事が保守系なので、それは容易ではないと見る向きが多かった。「共に民主党」が弾劾に消極的だったのは、このためでもあります。

 しかし、11月20日に検察が「大統領は共犯」とはっきり認めたので、憲法裁判所が合憲と認める可能性が増したと考えられています。

遡及立法が当たり前の韓国

朴大統領は自らを窮地に――弾劾に追い込んでいるように見えます。

鈴置:これしか手がないと判断したと思われます。①②③はいずれも大統領にとって譲歩を意味します。韓国では譲歩した方が負けます。

 ②③は任期前の退陣です。大統領を辞めた瞬間に起訴される可能性が極めて高い。表「韓国歴代大統領の末路」をご覧下さい。

●韓国歴代大統領の末路
①李承晩(1948年7月―1960年4月) 不正選挙を批判され下野、ハワイに亡命。退陣要求のデモには警察が発砲、全国で183人死亡
②尹潽善(1960年8月―1962年3月) 軍部のクーデターによる政権掌握に抗議して下野。議院内閣制の大統領で実権はなかった
③朴正煕(1963年12月―1979年10月) 腹心のKCIA部長により暗殺。1974年には在日韓国人に短銃で撃たれ、夫人の陸英修氏が殺される
④崔圭夏(1979年12月―1980年8月) 朴大統領暗殺に伴い、首相から大統領権限代行を経て大統領に。軍の実権掌握で辞任
⑤全斗煥(1980年9月―1988年2月) 退任後に親戚の不正を追及され隠遁生活。遡及立法で光州事件の責任など問われ死刑判決(後に恩赦)
⑥盧泰愚(1988年2月―1993年2月) 退任後、全斗煥氏とともに遡及立法により光州事件の責任など問われ、懲役刑判決(後に恩赦)
⑦金泳三(1993年2月―1998年2月) 1997年に次男が逮捕、懲役2年判決。罪状は通貨危機を呼んだ韓宝グループへの不正融資関与
⑧金大中(1998年2月―2003年2月) 任期末期に3人の子息全員が斡旋収賄で逮捕
⑨盧武鉉(2003年2月―2008年2月) 退任後、実兄が収賄罪で逮捕。自身も2009年4月に収賄容疑で検察から聴取。同年5月に自殺
⑩李明博(2008年2月―2013年2月) 2012年7月、実兄で韓日議員連盟会長も務めた李相得氏が斡旋収賄などで逮捕、懲役2年
⑪朴槿恵(2013年2月―)  

 全斗煥(チョン・ドファン)大統領と盧泰愚(ノ・テウ)大統領は退任後に、わざわざ遡及立法で作られた特別法で起訴されました。全斗煥大統領は後に恩赦されたとはいえ、死刑判決まで受けたのです。

 朴槿恵大統領も「韓国の権威を世界で貶めた大統領に対する特別法」を作られ、投獄されかねない。それなら正面突破しようと考えても不思議はありません。

朴大統領もいずれは引退します。

鈴置:ええ、2018年2月に5年間の任期が終了します。憲法の定めで重任できません。ですから弾劾されなくとも、今から1年4カ月後には起訴される可能性があります。

 しかし、リスクは先延ばしにした方がいいに決まっています。今、下野するよりも弾劾で時間稼ぎするのが合理的です。その間に国民の怒りも少しは収まるでしょう。憲法裁判所も空気を読むでしょうし。