左派系紙は「財団」を主張

最高裁が「賠償せよ」との判決を下すのは目に見えていた。それに対し日本が反発し、泥沼化するのも予想された。文在寅政権はなぜ、審理を再開させたのでしょうか。

鈴置:2つ見方があります。1つ目は、日本が反撃に出るとは予想していなかった――です。最高裁判決まで出して賠償を迫れば、日本が屈すると考えていたフシがあります。

 実際、東京新聞は判決の翌10月31日の社説「元徴用工判決 日韓摩擦減らす努力を」で日本がカネを出すことも検討すべきだと主張しました。

  • 原則論をぶつけ合うだけでなく、原告と被告企業をつなぐ接点はないか、政府レベルでも探る必要があるだろう。例えば基金をつくって賠償をする方式も、専門家の間で論議されているという。

 「基金」とは日本の外務省に「日韓共同で出資する財団」を作って賠償金を支払うとの構想があったことを指すのでしょう。

 朝日新聞も「財団」に話を持って行こうとしています。社説「徴用工裁判 蓄積を無にせぬ対応を」(10月31日)の結論が以下です。

  • 日本政府は小泉純一郎政権のとき、元徴用工らに「耐え難い苦しみと悲しみを与えた」と認め、その後も引き継がれた。
  • 政府が協定をめぐる見解を維持するのは当然としても、多くの人々に暴力的な動員や過酷な労働を強いた史実を認めることに及び腰であってはならない。
  • 負の歴史に由来する試練をどう乗り切り、未来志向の流れをつくりだすか。政治の力量が問われている。

朴正煕を否定したい

でも、安倍晋三首相がそんな安易な妥協をするとは思えません。

鈴置:確かにそうです。それから考えて、文在寅政権は日本と摩擦を起こそうが国際的に孤立しようが、1965年の日韓国交正常化交渉そのものを否定するつもりだったのだ――との見方が浮上するのです。鮮于鉦・部長も以下のように書いています。

  • 我が社会には国家の正統性を否定する勢力がいる。朴正煕政権を軽蔑する程度の彼らの知力では、韓国の経済発展を受け入れられない。だから、経済発展の元手となった請求権資金の性格について半世紀以上、かみついているのだ。
  • 国家の正統性を信じる人々は、この資金を植民地の賠償金とたがわない「犠牲の代価」として解釈する傾向がある。受け取るべき金を後世の人々が堂々と受け取り、自ら経済発展させたということだ。

 「国家の正統性」と話が大げさですが、朴正煕政権を民主化運動を弾圧した独裁政権と見なすか、それとも経済発展を成し遂げた政権ととらえるか、韓国には2つの考え方があります。

 前者にすれば、日本との国交正常化は独裁者が世論を無視して「不平等条約」を結んだ屈辱的な出来事だった。だからその中核たる請求権協定も否認したい。最高裁判所の判決もまさにそこから来ています。

建国する心情で書いた判決

どこが「不平等条約」だと言うのですか?

鈴置:正常化交渉の際、韓国側は「韓日併合は不法だった」と主張。一方、日本側は「1910年の併合条約にのっとった合法的なものだった」と反論。

 結局その部分は、1965年の日韓基本条約では玉虫色に処理されました。韓国の要求が貫徹できなかったと不満を持つ人たちは「不平等条約だ」と言っているわけです。

 2012年5月に韓国・最高裁が「個人の請求権は消えていない」と差し戻した時の裁判官に関する記事を東亜日報が載せました。「キム・ヌンファン、6年前の上告審で『建国する心情で判決を書いた』」(10月31日、韓国語版)です。

 その裁判官、キム・ヌンファン氏は10月30日の最高裁判決に対し「私が語るべき言葉はすでに(当時の)判決に全て書いた」と答えるにとどめました。ただ、この記事は次のようにも報じました。

  • 彼が1、2審とは全く異なる判決を書いた際、周辺に「建国する心情で判決を書いた」と語ったという。

 建国する心情――。日韓国交正常化という、彼らにとっての屈辱の歴史を全て否定し、新たな国をつくるとの覚悟の上での判決だったのです。

 21世紀に入ってからの韓国人は「日本を超えた」と自信を持ちました(『米韓同盟消滅』第3章「中二病にかかった韓国人」参照)。「超えた」証拠とするためにも、日韓国交正常化交渉を否定したくなるのです。

 もちろん、文在寅政権の中枢部もそう考えている。だから、中断していた最高裁の審理を再開させて、賠償判決を引き出したのです。

それにしても「国家の正統性」とは大げさな……。

鈴置:この判決を真正面から批判すると「親日派」との批判にさらされる。そこで鮮于鉦・部長は正統性論に話を持って行き「これまでの栄光の国の歩みを否定するのか」と訴えたのです。

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