国際言論戦に出た日本

韓国はICJに訴えられても、応じなければいいのでは?

鈴置:その通りです。韓国はICJに加盟しているものの、日本とは異なって強制管轄権は受け入れていないからです。ただ、「韓国が逃げた」とのイメージが世界に広まります。すると、韓国は国際世論の圧力をもってして、日本を屈服させることが難しくなります。

 中央日報は「韓国政府『歴史・未来ツートラック』慎重…日本がICJ提訴すれば外交的負担に」(10月31日、日本語版)で、以下のように書きました。

  • 日本が念頭に置いているのは「国際世論戦」だ。国際法的な解決が物理的に不可能だったとしても、問題提起を通じて「韓国が両国間条約を守る信義・誠実義務と国際法精神に違反した」という点を強調することができる。韓国政府にとっては外交的負担となりうる。

 この記事が懸念したように、日本政府は国際世論戦に打って出ました。河野太郎外相が日本メディアだけではなく、ブルームバーグにも「韓国政府が責任を持って補償せよ」と語りました。「河野外相、元徴用工への補償は『韓国側に責任』―インタビュー」(11月4日、日本語版)です。

 賠償金を支払えと韓国最高裁に命じられた新日鉄住金も10月30日「日本政府の対応状況等も含め適切に対処する」とのコメントを出しています(「徴用工訴訟に関する韓国大法院の判決について」参照)。

文在寅も認めていた

韓国は国際的な世論戦で勝てないのですか?

鈴置:中央日報の「韓国政府『歴史・未来ツートラック』慎重…日本がICJ提訴すれば外交的負担に」(10月31日、日本語版)は韓国側の弱点を告白しています。

  • 政府としては1965年の韓日協定締結以降、53年間維持してきた立場と正反対の大法院判決が下されたこと自体が負担となっている。
  • 盧武鉉政権だった2005年に政府が確立した立場とも対峙する。政府は韓日協定交渉関連外交文書を全面公開し、国務総理室傘下に「韓日会談文書公開官民共同委員会」を発足させて請求権協定の効力範囲に対する解釈を出した。
  • 強制徴用被害者の個人賠償請求権は1965年協定で消滅し、政府としては被害者を救済する道義的責任があるということが結論だった。李海瓚(イ・ヘチャン)「共に民主党」代表が当時首相として共同委員長を務め、文在寅大統領も青瓦台(大統領府)民情首席として委員に名を連ねた。

 なお、この記事は原告を「強制徴用被害者」と記述していますが、強制でも徴用でもなく、日本製鉄(当時)の募集に自ら応じて採用された人々です。

父親の功績を否定する判決

韓国側には重大な弱みがある。だから、文在寅政権は判決後、2週間たっても反応が出せないのですね。

鈴置:その通りです。鮮于鉦・部長は、勝てもしない戦いを始めた文在寅政権の軽率さを問題にしたのです。

 この訴訟は最高裁での審理が止まっていました。ソウル高裁の「賠償は要求できない」との2審判決を2012年5月、最高裁が「個人の請求権は消滅していない」との判断から差し戻した。

 それを受けて2013年7月にソウル高裁が賠償命令を下しました。被告の新日鉄住金が上告したのですが、今度は、最高裁が判決を5年間以上も引き延ばしていました。

 朴槿恵政権が陰で審理を邪魔したからだ、ということに現在の韓国ではなっています。最高裁がいったん差し戻した以上「賠償せよ」との判決が下りる可能性が極めて高い。

 日本との外交交渉など、面倒に巻き込まれることを嫌がったから、と見る人もいます。「賠償判決」が下りれば朴槿恵氏の父親、朴正煕(パク・チョンヒ)大統領の功績を否認してしまうからとも考えられます。

 朴正煕政権は1965年の日韓国交正常化を実現し、経済発展の基礎を築いた。というのに「賠償判決」は、輝かしい発展の基礎となった国交正常化交渉を失敗だったと貶めることになるからです。

 朴槿恵政権の「邪魔」を正すために、文在寅政権は最高裁での審理を再開させました(「新日鉄住金が敗訴、韓国での戦時中の徴用工裁判」参照)。

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