「朝鮮人労働者」も同じ構図

また、ひっくり返した。

鈴置:その通りです。ただ鮮于鉦・部長が指摘するように「ひっくり返し方」が中途半端でした。慰安婦合意は事実上、破棄した。ところが日本に対してはそう言わない。

 破棄したと言えば、元・慰安婦の権利を守るために再交渉せねばならない。もし交渉しなければ、あるいは交渉しても有利な結果を残せなければ、また「不作為の作為」により憲法違反と認定されかねない。

 そこで文在寅大統領は慰安婦合意を宙ぶらりんの状態に置いている。そんな、口先だけの大統領を鮮于鉦・部長は「非難ばかりせずに自分で解決に動け」と――「言うだけ番長」と難詰したのです。

 そして鮮于鉦・部長はいわゆる「徴用工判決」に話を進めます。10月30日に韓国・大法院――最高裁が新日鉄住金に対し、第2次世界大戦中の朝鮮人労働者に慰謝料を支払えと命じた判決です(「文在寅政権は『現状を打ち壊す』革命政府だ」参照)。

  • (韓国)政府は「判決を尊重する」と言った。ならば、文政権は日本を相手に膨大な数の被害者の賠償権を実現するため、外交的保護権を行使せねばならない。
  • 重大な義務である。遅滞すればまた、違憲になる。盧武鉉政権のように「不作為」の汚辱を他人に被せるのではなく、植民地への賠償を主張しなければならない。

植民地は賠償の対象か

「日本と戦え」と主張したのですね。

鈴置:表面的にはそうですが、あくまで反語的な表現です。「日本と戦う覚悟もないくせに、こんな判決を誘導した」と非難したのです。これに続く部分を読めば分かります。

  • 依然として世界秩序を主導している旧帝国主義国家が、植民地への賠償をどのように受けとめるか、その視線を感じよ。

 国際司法裁判所(ICJ)で勝つには欧米の支持が要る。だが、彼らは皆、植民地を持っていた国々だ。「植民地支配を賠償せよ」との韓国の主張に賛同しないだろう、と指摘したのです。

 1965年の日韓請求権協定では国家と個人は、協定の締結後は日本に対し請求権を要求できないと明記しました。以下です。

  • 両締結国及びその国民の間の請求権に関する問題が(中略)完全かつ最終的に解決されたこととなることを確認する。
  • 締結国及びその国民の(中略)すべての請求権であって、同日(署名日)以前に生じた事由に基づくものに関しては、いかなる主張もできないものとする。

 この鉄壁の合意をすり抜けるため、韓国最高裁は判決で詭弁を弄しました。原告が求めているのは植民地支配に対する精神的な慰謝料であり、請求権協定の締結時に日本政府が植民地支配を謝罪していない。である以上、慰謝料もまだ支払われていないことになる。今、それを支払え――との理屈をこねたのです。

 要は、判決は植民地支配には賠償を求めることができる――と宣言したのです。これを植民地帝国の欧米が認める可能性は低いぞ、というのが鮮于鉦・部長の主張です。

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