「朴槿恵退陣」のプラカードを手にソウルのデモに集まった人々(写真:ロイター/アフロ)

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 韓国という旅客機の乗客が、パイロットを変えろと大騒ぎだ。操縦席にはまだ大統領が座っているようだが、意識があるかは不明だ。いつまで韓国が正常に飛び続けるかは誰にも分からない。

1週間で4倍に膨れたデモ

11月5日にもソウルで朴槿恵(パク・クンヘ)大統領の退陣を求める大きなデモがありました。

鈴置:参加者数は主催者発表で20万人、警察発表で4万人強。その間を取るように、保守系メディアの多くは10万人と報じました。

 その1週間前の土曜日、10月29日のデモの参加者数は主催者発表で3万人、警察発表では1万人強でした。4倍以上に膨れ上がったことになります。

朴大統領は2度も国民に謝ったのではありませんか?

鈴置:ええ、10月25日に続き11月4日にも国民向けの談話を発表しました。テレビも中継する中、40年来の友人である崔順実(チェ・スンシル)氏への情報流出に関し国民に頭を下げました。

 でも、いずれの謝罪も火に油を注ぐ結果となりました。10月25日の1回目の謝罪はたった90秒間でした。記者からの質問も受け付けなかったので「誤魔化し」と受け止めた韓国人が多かった。

 2回目の11月4日の謝罪は9分間に延長しました。自らの捜査に応じるとも大統領は明言しました。が、やはり記者の質問は受け付けませんでした。国民の声に耳を傾けない「一方通行の指導者」との不満をますますかき立てました。

 それに検察の捜査が本格化し、世間の関心は崔順実氏が財界に巨額の「強制的寄付」を要求していた事件に移っていたのです。

 メディアが「(強制的な寄付に関しては)大統領の指示を受けた」との青瓦台(大統領府)元・高官の発言を報じていた。

 というのに2回目の談話で大統領は「特定個人が利権をむさぼり、違法行為まで犯していた」とまるで他人事のように述べ、新たな国民の怒りを呼びました。

「国政壟断事件」の動き(2016年)
10月
24日 JTBC、大統領演説の草稿など機密資料が崔順実氏に漏えいと報道
25日 朴大統領が資料提供を認めて国民に謝罪
26日 検察が崔氏自宅など家宅捜索。外交資料なども漏洩とメディアが報道
28日 朴大統領は首席秘書官全員に辞表を出させる。秘書室長が辞表提出
28日 韓国ギャラップ「朴大統領の支持率が6週連続で落ち、過去最低の17%に」と発表
29日 青瓦台、検察の家宅捜索を拒否。ソウルで1万人強の退陣要求デモ
30日 青瓦台、検察に資料提供。朴大統領は一部首席秘書官らを辞任させる
30日 与党、挙国一致内閣を提案するも野党は真相究明が先と拒否
30日 崔順実氏帰国、31日に検察に出頭、逮捕状なしで緊急逮捕
31日 リアルメーター「潘基文氏の支持率が前週比1.3ポイント低い20.9%に」
11月
2日 朴大統領、首相を更迭し、後任に盧武鉉時代に要職を歴任した金秉準氏を指名
2日 野党各党、新首相の就任に必要な国会聴聞会を拒否することで一致
2日 検察、安鍾範・政策調整首席秘書官を緊急逮捕
3日 検察、崔順実氏を逮捕。容疑は「安鍾範氏と共に財閥に寄付を強要した」職権乱用など
4日 韓国ギャラップ「朴大統領の支持率は過去最低の5%、不支持率は89%」と発表
4日 朴大統領「検察の捜査受ける」と国民向け談話。野党は「退陣要求運動を展開する」
5日 ソウルで4万5000強人の退陣要求デモ。釜山など他都市にも拡散
6日 禹柄宇・前民情首席秘書官が検察に出頭

※注 デモの参加者数は警察発表

時局認識が安易か無知だ

朴大統領は首相も交代させましたが。

鈴置:11月2日に首相を更迭し、後任に金秉準(キム・ビョンジュン)氏を指名しました。左派の盧武鉉(ノ・ムヒョン)政権時代(2002―2008年)に副首相という要職を歴任した人なので、野党も受け入れると判断したのでしょう。

 しかし、この人事も野党に攻撃材料を提供しました。与党、セヌリ党は「共に民主党」や「国民の党」など野党に対し「挙国中立内閣を作ろう」と持ちかけていました。

 そこに突然、朴大統領が相談もなく新首相を指名したわけで、野党はさらに硬化しました。首相任命は国会の同意事項です。2016年4月の総選挙でセヌリ党は少数与党に転落しています。もともと野党への根回しなしに首相交代は不可能なのです。

 東亜日報のホ・ムンミョン論説委員は「朴大統領は朴志晩(パク・ジマン)氏から会え」(11月4日、韓国語版)で以下のように書きました。

  • 金秉準首相の内定は順番を間違った。大統領がまず率直に(真相を)解明し、離党した後に与野党の代表と会って挙国内閣を前提に2、3人の複数候補の推薦を得て1人を選ぶという手順を踏めば、収拾の道が開けたであろうに。
  • 大統領の時局認識が安易なのか、あるいは無知なのか、理解できない。