トランプをピエロに

ところで、今回の合意で韓国は何を得たのですか?

鈴置:合意文には「すべての分野での交流・協力を正常的な発展軌道に速やかに回復することに合意した」とあります。

 THAAD配備容認への懲罰として、様々の方法で中国は韓国企業をいじめてきました(「中国が操る韓国大統領レース」参照)。

 今回の合意で韓国が得たのはこの「正常な発展軌道に回復」――「いじめの撤回」だけです。でも、それも「韓国が約束を守っている」と中国が判断している間だけのことでしょう。

結局、このタイミングで中国が韓国と「関係改善のための合意」を交わしたのはトランプ訪韓を前に、中国側に引き付けておくためなのですね。

鈴置:その通りです。それと、トランプ演説を貶める目的もあると思います。訪韓中にトランプ大統領は国会で演説します。

 北朝鮮の核問題を解決するための決意に加え、中国包囲網をも訴える可能性が高い。米国は米・日・豪・印の4カ国による対中包囲網作りに動いているからです。

 このトランプ演説に泥を塗る効果も中国は狙ったのでしょう。いくら米国の大統領が中国に対し力んで見せても、その講演の舞台が「米国を裏切った国の国会」ということになれば、トランプ大統領はピエロになりかねません。少なくとも中国への威嚇は半減します。

再び属国に転落

中韓合意に対する韓国人の反応は?

鈴置:中国との関係改善にはほっとした。しかし「3NO」など中国の命令の丸飲みは釈然としない――といった感じです。

 保守系紙、朝鮮日報の社説「未来の主権を放棄したTHAAD合意、暴力的な報復は再発する」(11月1日、韓国語版)の、THAADの追加配備に関する次の1文が目を引きます。

  • 主権国家がほかの国に「我々は今後、なんらかの兵器を配備しない」と約束することがあり得るのか。

 我が国は主権国家とは言えない、との慨嘆です。もっとはっきり書いたのが保守運動の指導者、趙甲済(チョ・カプチェ)氏です。

 自身が主宰するサイトに「胡乱以降の最大の外交惨事」(10月31日、韓国語)を載せました。「胡乱」とは李氏朝鮮が清朝から攻撃され、服従することになった17世紀の事件を指します。明が滅んで清が登場するなか、朝鮮朝は宗主国を代えたのです。最初の段落を要約します。

  • 文在寅(ムン・ジェイン)政権が「3NO」を約束したのは大韓民国の進路に大きな影響を与える屈辱的な外交上の惨事だ。中国が韓国の防衛的な兵器の配備に介入したことは主権の侵害である。
  • あまりにも重要な核心の3つの案件で、あっさりと中国に譲歩した。中国は心の中で「ついに、韓国を朝鮮朝のように朝貢国の身分に落とした」と笑っているだろう。

 朝鮮半島の歴代王朝は千数百年にわたって中華帝国の属国でした。国家防衛のあり方で中国の言いなりになれば、また昔の属国に転落すると趙甲済氏は訴えたのです。韓国の保守にとって、中韓合意文は主権を放棄する「降伏文書」だったのです。

 今、朝鮮半島といえば、北朝鮮ばかりが注目される。でも、核問題の裏側で韓国が一気に中国側に引き戻されていることを見落としてはなりません。

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