
(前回から読む)
米国は韓国をいつまで同盟国と見なすのだろうか。愛知淑徳大学の真田幸光教授と「通貨戦争」を通じ考えた(司会は坂巻正伸・日経ビジネス副編集長)。
摩訶不思議な中韓スワップ
中韓通貨スワップは、本当に存在するのでしょうか?
鈴置:多くの人が首を傾げています。中韓スワップの期限が切れた翌々日の10月12日になって、韓国銀行の総裁が「結び直した」「延長ではないが、延長と同じだ」などと、立ち話で語りました。
しかし正式発表はなく、韓国銀行のサイトは10月31日になってもこのスワップに関する報道資料を一切、載せていません。問い合わせを受けた中国側も「韓国に聞け」と言うだけです(「『懲りない韓国』に下す米国の鉄槌は『通貨』」参照)。
相手国 | 規模 | 締結・延長日 | 満期日 | 中国 | 3600億元/64兆ウォン(約548億ドル)終了→再開? | 2014年 10月11日 |
2017年 10月10日 |
---|---|---|---|
豪州 | 100億豪ドル/9兆ウォン(約78億ドル) | 2017年 2月8日 |
2020年 2月7日 |
インドネシア | 115兆ルピア/10.7兆ウォン(約85億ドル) | 2017年 3月6日 |
2020年 3月5日 |
マレーシア | 150億リンギット/5兆ウォン(約36億ドル) | 2017年 1月25日 |
2020年 1月24日 |
CMI<注> | 384億ドル | 2014年 7月17日 |

愛知淑徳大学ビジネス学部・研究科教授(研究科長)/1957年東京生まれ。慶応義塾大学法学部卒。81年、東京銀行入行。韓国・延世大学留学を経てソウル、香港に勤務。97年にドレスナー銀行、98年に愛知淑徳大学に移った。97年のアジア通貨危機当時はソウルと東京で活躍。2008年の韓国の通貨危機の際には、97年危機の経験と欧米金融界に豊富な人脈を生かし「米国のスワップだけでウォン売りは止まらない」といち早く見切った。
真田:中韓の間に口約束はあるのでしょう。皮肉な言い方をすれば、協定を正式に結んだかはあまり関係ない。合意書があっても、様々の理由を付けて守らない国もあるのです(笑い)。
鈴置:確かに(笑い)。中韓スワップ協定が満期になる前から、THAAD(地上配備型ミサイル迎撃システム)の韓国配備により中国が協定通りに人民元を融通するのか、疑問符が付いていました。
ただ、「米国の向こうを張る大国」を中国は自称し始めました。正式な協定書にサインし世界に発表した後では、さすがに反古にしにくい。
中国は韓国に外交案件で譲歩させた後に、見返りの一部として正式にスワップを結ぶつもりと思われます。
米韓同盟廃棄の呼び水
「譲歩」とは?
鈴置:10月31日、韓国外交部はそのサイトに「韓中関係改善に関連した両国の協議の結果」という題目の報道資料を載せました。
これによると、韓国は「在韓米軍のTHAADは中国を狙ったものではない」と中国に一札を入れました。中韓合意のその部分を以下に訳します。
- 韓国側は、中国側のTHAAD問題に関連する立場と懸念を認識し、韓国に配置されたTHAADは、その本来の配置の目的からして第3国を狙うものではなく、中国の戦略的安全保障の利益を損なわないことを明らかにした。
「在韓米軍に配備されたTHAADは中国を狙ったものではない」と韓国は説明してきました。それを文書化させられたわけで、これは大きな譲歩です。
北朝鮮の核問題が何らかの形で解決すれば、中国がこの文書をかざして韓国に「もうTHAADは不要だろう。米国に撤収させろ」と要求するのは確実です。
一方、在韓米軍が中国の弾道ミサイルから自らを守るTHAADなしに駐留を続けるかは疑問です。結局、この合意は在韓米軍の撤収、ひいては米韓同盟廃棄の呼び水となります。
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