核を失えば権力も失う

22年前と同様に対話で一応は解決できるのでしょうか。

鈴置:解決というより、問題を先送りして悪化させただけだったのですけれどね、今から振り返れば。

 「対話による解決」は22年前と比べはるかに難しくなっています。金日成主席は米国や日本と国交正常化できるのなら、核開発を放棄してもよいと本気で考えていたフシがあります。

 しかし3代目の金正恩委員長が核を手放すことはまず、ないでしょう。核を放棄したら権力の座から転げ落ちる可能性が大きい。「核武装を実現した」ことだけが国民に誇れる実績だからです。

 それに1994年当時、北朝鮮は核弾頭も中・長距離の弾道ミサイルも開発を始めたばかりでした。米国には腰を据えて北朝鮮と交渉する時間的な余裕がありました。

 しかしもう、先送りはできません。北朝鮮はあと1、2年でミサイルに搭載可能な小型の核弾頭や、米国まで届く長距離弾道ミサイルを完成すると見られるのです。

 仮に今回、米朝対話を実施したとしても、北朝鮮が時間稼ぎの素振りを見せた瞬間、米国では「時間がない。先制攻撃に踏み切ろう」との声が一気に高まるでしょう。

米朝対話、再び?

マレーシアで米朝が会談したと報じられました。

鈴置:10月21日、22日の両日、クアラルンプールで北朝鮮の韓成烈(ハン・ソニョル)外務次官らと、米国のガルーチ(Robert Gallucci)元・国務次官補らが非公式に話し合いました。

 テーマはもちろん北朝鮮の核とミサイルです。北朝鮮は自身を核保有国と認めたうえ、在韓米軍の撤収につながる米朝平和協定の締結を求めた模様です。一方、米国は朝鮮半島の非核化を要求したようです。

 双方ともにこれまでの要求を繰り返しただけです。対話がすぐさま始まるとは思えません。オバマ(Barack Obama)政権の任期は2017年1月までで、新たな行動には出にくいのです。

 なお、ガルーチ氏はビル・クリントン政権下で北朝鮮との交渉役を務め、1994年の米朝「枠組み合意」をまとめた人です。

 東亜日報は社説「対北圧迫の中での米朝接触、北朝鮮に誤ったシグナルを与える時ではない」(10月24日、日本語版)で以下のように分析しました。

  • 米国側出席者は民主党候補のヒラリー・クリントン氏が11月の大統領選で勝利する場合、次期政府の北朝鮮政策に影響力を行使する可能性が少なくない。
  • 今回の接触は、クリントン氏が当選する場合を想定して、米民主党に近い韓半島専門家と北朝鮮側が互いの考えを探るためのものとみえる。
  • オバマ政府が直ちに強硬な対北スタンスを変える可能性はないが、次期政権ではどのように変化するか分からないため、韓国政府は綿密な備えが必要だ。

先を読める人はいない

韓国紙も予想が付かないのですね。

鈴置:金正恩委員長とオバマ大統領、あるいは米国の次期大統領を含め、先を読める人は世界のどこにもいないでしょう。日本も予断を持たず、あらゆる可能性を考えて準備することが肝要です。

(次回に続く)

大好評シリーズ最新刊 発売開始!
Amazon「朝鮮半島のエリアスタディ 」ランキング第1位獲得!
孤立する韓国、「核武装」に走る

■「朝鮮半島の2つの核」に備えよ

北朝鮮の強引な核開発に危機感を募らせる韓国。
米国が求め続けた「THAAD配備」をようやく受け入れたが、中国の強硬な反対が続く中、実現に至るか予断を許さない。

もはや「二股外交」の失敗が明らかとなった韓国は米中の狭間で孤立感を深める。
「北の核」が現実化する中、目論むのは「自前の核」だ。

目前の朝鮮半島に「2つの核」が生じようとする今、日本にはその覚悟と具体的な対応が求められている。

◆本書オリジナル「朝鮮半島を巡る各国の動き」年表を収録

中国に立ち向かう日本、つき従う韓国』『中国という蟻地獄に落ちた韓国』『「踏み絵」迫る米国 「逆切れ」する韓国』『日本と韓国は「米中代理戦争」を闘う』 『「三面楚歌」にようやく気づいた韓国』『「独り相撲」で転げ落ちた韓国』『「中国の尻馬」にしがみつく韓国』『米中抗争の「捨て駒」にされる韓国』 に続く待望のシリーズ第9弾。10月25日発行。