米国は「底なしのお人好し」か

「地図から消える」とは過激ですね。

鈴置:日本の新聞と比べ、韓国紙の表現は相当に大げさです。その分は割り引かなくてはいけません。でも、記事を読むと韓国人の焦燥感がよく分かります。

 まずは「地図から消え去ったことがある国が肝に銘じること」(2016年9月2日、韓国語版)です。朝鮮日報の姜天錫(カン・チョンソク)論説顧問が書きました。

 米韓が合意したTHAAD(=サード、地上配備型ミサイル迎撃システム)の在韓米軍への配備に対し野党や、与党の一部国会議員、住民が反対し、前へ進まないことに懸念を表明した論説です。ポイントを訳します。

  • THAAD配備の発表以降、韓国で繰り広げられてきたことは「この国が100年前に地図から消えた国だという国だという事実が記憶されているのだろうか」と疑わせる。
  • 政府は習慣的に決定・発表し、野党は慣性により反対し、専門家は空論で一部メディアに迎合し、地域住民は利害に動かされハチマキを絞める。
  • 現在の韓米関係において「血盟」という単語にあまりに多くの意味を与えれば錯覚を呼ぶ。韓国の地政学的な価値を過大評価し「どんなことがあろうと米国は韓国から離れない」といった、米国を底なしのお人好しと見なすことは危険そのものである。
  • THAADの主目的は在韓米軍と米軍の装備を北朝鮮の先制攻撃から守ることだ。韓国防衛のためにやって来た自国の兵士を保護する装備の導入に韓国が反対すれば、米国内にどんな世論が巻き起こるか、火を見るよりも明らかである。

「桂―タフト協定」再び

確かに、在韓米軍基地にTHAADを配備させないと言うのなら、米国は韓国を見捨てたくなるでしょうね。

鈴置:誰もがそう思います。でも、配備に中国が猛反対しているので韓国人は賛成しにくい、あるいは反対するのです。

 朴槿恵大統領だって2016年1月に北朝鮮が4回目の核実験をするまでは、中国の顔色を見てTHAAD配備に明確な態度を打ち出せなかったのです。

「米国に見捨てられる」ことは分かりました。では、なぜそれが「地図から消える」ことになるのでしょうか。

鈴置:姜天錫論説顧問は米国に見捨てられると、韓国が米中のパワーゲームの取引材料にされて自らの手で国の針路を決められなくなる――つまり、主体的な国家を維持できなくなると憂えました。

 韓国人にとってそれは想像ではなく「過去にも体験したこと」なのです。1910年、朝鮮は日本に併合されました。フィリピンを植民地として確保しておきたい米国と、日本との取引の結果でした。

 1905年の桂―タフト協定(Taft-Katsura Agreement)がその証文です。この論説も、以下のように書き出されています。

  • 強大国に取り囲まれた国が独立と尊厳を守るのは簡単ではない。朝鮮半島は1910年から1945年の36年の間、世界地図で「Japan」と表記された。
  • 16世紀頃、中部ヨーロッパで大国だったポーランドも国境を接する強大国のプロイセン、オーストリア、ロシアにより何度も国土を分割され、1795年に地図から消えた。
  • 1918年、第1次世界大戦が終わると同時に123年ぶりに国を取り戻したが、1939年にドイツとソ連が東西両側から攻撃するや、再び地図から消えた。
  • ポーランド滅亡の原因は守旧と革命勢力の間の国論分裂と、国際情勢に対する誤った判断だった。
  • 周辺の強大国はお互いに争いながらも、ポーランド分割問題に関しては、いつ争ったことがあるかといった風情で容易に合意に達した。

次ページ 物理的にも「消える」