「大統領が狂っている」と言え

 「協定破棄」は突然の話ではありません。9月2日、ワシントン・ポスト(WP)が「トランプ、米韓FTA破棄を準備」と特ダネで報じました。「Trump preparing withdrawal from South Korea trade deal, a move opposed by top aides」です。

 10月1日になって米オンラインメディアのAXIOSが、当時のトランプ大統領の発言をスクープしました。

 大統領執務室で「30日以内に韓国が譲歩しないなら、FTAを破棄する」「大統領が狂っているから、今すぐにも協定を破棄すると(韓国政府に)言え」などとUSTRのライトハイザー(Robert Lighhtizer)代表に指示したというのです。

 「Scoop: Trump urges staff to portray him as "crazy guy"」で、生々しいやりとりを読めます。以下です。

  • "You've got 30 days, and if you don't get concessions then I'm pulling out," Trump told Lighthizer.
  • "Ok, well I'll tell the Koreans they've got 30 days," Lighthizer replied.
  • "No, no, no," Trump interjected. "That's not how you negotiate. You don't tell them they've got 30 days. You tell them, 'This guy's so crazy he could pull out any minute.'"
  • "That's what you tell them: Any minute," Trump continued. "And by the way, I might. You guys all need to know I might. You don't tell them 30 days. If they take 30 days they'll stretch this out."

 ただこの時は「協定破棄」には至りませんでした。9月3日に北朝鮮が核実験するなど朝鮮半島情勢が緊迫化し、米韓同盟にヒビを入れるべきではないとの声が高まったからです。

 当時の空気をウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)の「Trump Administration Weighs Withdrawal From South Korea Trade Pact」(9月3日、英語版)が伝えています。

 それによると、大きな影響力を持つマクマスター("H. R." McMaster)大統領補佐官(国家安全保障担当)が、協定破棄はタイミングを考え注意深く実行するよう注文しました。

 この記事は「ホワイトハウスが本気で協定の破棄を考えているのか、再交渉の席に韓国を呼び戻すための戦術かは不明だ」とも解説していました。

甘く見ていた韓国

 当時は韓国政府も「単なる脅し」と軽く見ていました。中央日報の「トランプ大統領の韓米FTA破棄言及、再交渉で優位に立つ狙いも」(9月4日、日本語版)は、韓国政府関係者を指すと見られる「ワシントン外交筋」の以下の発言を紹介しています。

  • 先月(8月)22日にソウルで開かれたFTA改定特別会議で韓国側が米国側の主張を全く受け入れず、今後の日程も決められずに別れたことに怒ったトランプ大統領が、破棄の検討を参謀に指示したと把握している。
  • 韓国の強硬姿勢にさらなる強硬姿勢で対抗すべきだというトランプ式の交渉術とみられる。

 転機となったのが、韓国政府が9月21日に発表した対北支援です。日米両国政府が繰り返し思い留まるよう申し入れたのに、韓国政府は無視して援助を決めました。

 同じ日にニューヨークでの日米韓首脳会談で北朝鮮への圧力強化に合意したというのに、です。韓国政府は援助の時期は未定とも発表しましたが、北朝鮮包囲網を破ったのに違いはありません。

 米政府が運営するVOA(アメリカの声)は、韓国政府の決定を批判する国務省報道官の発言を報じました。報道官が同盟国をこれほどはっきりと批判するのも珍しい。

 「国務省、韓国政府の対北支援決定に『北には最大の圧迫を加えねば』」(9月23日、韓国語版、談話の一部は英語でも)で、東アジア太平洋局のアダムス(Katina Adams)報道官の発言を読めます。翻訳します。

  • これは韓国の決定だが、米国の立場は変わらない。我々は世界の国に対し、最大の圧力を加えるよう追加的な行動を呼びかけている。それには経済面、外交面で北との関係を断つことも含む。

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