9月28日、 文在寅大統領は宋永武国防長官と並んでオープンカーで閲兵。「北朝鮮に断固たる姿勢を示すため」と説明されたが、その心中やいかに。(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)
9月28日、 文在寅大統領は宋永武国防長官と並んでオープンカーで閲兵。「北朝鮮に断固たる姿勢を示すため」と説明されたが、その心中やいかに。(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

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 ついに、青瓦台(韓国大統領府)の高官が米韓同盟の破棄に言及した。第2次朝鮮戦争への懸念が高まる中「戦争に巻き込まれるのなら、米国との同盟は不要」と言い切ったのだ。

大統領を動かす最側近

鈴置:発言したのは左派で北朝鮮と近い、統一外交安保特別補佐官の文正仁(ムン・ジョンイン)延世大学特任名誉教授です。

 9月27日にソウルの国会憲政記念館で開かれた討論会で、トランプ(Donald Trump)大統領が北朝鮮への軍事行動の可能性に言及したことに関連、以下のように語りました。

  • 多くの人が「韓米同盟を破棄しても、戦争は(したら)いけない」と言う。同盟の目的は戦争をしないことであって、同盟が戦争をする仕組みになるのなら、賛成する人はそれほどいない。
  • 北朝鮮が非核化しないなら対話しない、というのは現実的でない。条件なしに北朝鮮と対話せねばならない。

 朝鮮日報の「文正仁『韓米同盟壊れても戦争はダメ……北を核保有国として認めよ』」(9月28日、韓国版)や、中央日報の「韓国大統領の特別補佐官『韓米同盟壊れても戦争はならないとの話が多い』」(9月28日、日本語版)で発言を読めます。

 文正仁氏は単なる大統領のアドバイザーではありません。9月に金正恩(キム・ジョンウン)委員長の暗殺に関し、宋永武(ソン・ヨンム)国防長官とメディアを通じ、言い争いになったことがありました。

 文在寅(ムン・ジェイン)大統領は文正仁氏の肩を持ち、国防長官は青瓦台から厳重注意処分を受けました(「北朝鮮に『最後通牒』を発したトランプ」参照)。韓国人は文正仁氏が大統領を動かす最側近だと見なしました。

同盟破棄は「虻蜂取らず」

 そして「同盟破棄」発言は思い付きでも失言でもありませんでした。朝鮮日報の「文正仁『大統領が言えないろうそくの民心を伝えるのが私の任務』」(9月29日、韓国語版)によると翌日、発言について真意を聞かれた文正仁氏は「大統領と政府が言えないろうそくの民心(左派の心情)を伝えるのが私の役目」と答えました。

 「同盟破棄」は大統領を初めとする左派の真意であり、それを代弁しただけだと言い放ったのです。

 保守運動の指導者、趙甲済(チョ・カプチェ)氏が直ちに批判しました。趙甲済ドットコムの「『韓米同盟解体論』を口にし始めた大統領特補」(9月27日、韓国語)から引用します。

  • 文正仁氏はどんな戦争でも反対する無条件平和主義者の立場から、米国が北朝鮮を懲らしめるために戦争を始める場合はこれを防ぐため、韓米同盟を解体せねばならないと考えているようだ。
  • 韓国がそう出れば、米国は在韓米軍を撤収し韓米同盟の終了を宣言した後、朝鮮半島の外にある戦略資産を使って北朝鮮を攻撃するかもしれない。
  • 韓国は戦争を防げないのはもちろんのこと、北朝鮮の核攻撃を阻止する能力を喪失し、滅びるか人質になるだろう。

 「虻蜂取らず」になるとの警告です。同盟を破棄しても米国は在韓米軍を使わずに北を攻撃できるから、戦争は阻止できない。一方、韓国は北の核に対し丸腰になり、結局は北朝鮮に滅ぼされる――悲惨な結果を予測したのです。

 なお、この記事のサブタイトルは「無条件平和主義者は第五列と同じだ(李承晩=イ・スンマン)」です。

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