「挑発はもうない」と断言

文在寅発言を信じる専門家はいないでしょうね。

鈴置:もちろんです。ブルームバーグだけではありません。「文在寅氏との対話」の司会者――CFRのハース(Richard Haass)会長は、大統領の発言を頭から疑ってかかっています。

 ハース会長の質問は「韓国に向けた核・通常兵器での脅威を北朝鮮が削減すると考えているのか」「北朝鮮が言っていることを万が一にも実行した場合は、政策の根本的な変化になるが……」「本日、大統領が米国人に語った米韓同盟に関する説明は懐疑的に受け止められている――私もその1人なのだが……」などでした。

 北朝鮮だけではなく韓国の大統領も信じていないことを露わにしたのです。それも当然で詭弁は「金委員長はいい人だ」だけではなかったのです。例えば以下の発言です。

・North Korea also promised to permanently dismantle the missile engine test site, as well as the launch platform, under inspection from American experts.
・So if these measures are taken and implemented, I believe that this means that North Korea will no longer be able to engage in nuclear and missile provocations that threaten the United States and the international community.

 9月19日の平壌共同宣言で、北朝鮮は「東倉里(トンチャンリ)のミサイルエンジン試験場と発射台の廃棄」と「米国が相応の措置を取れば」との条件付きで「寧辺(ニョンビョン)の核実験場の廃棄」を約束しました。

 大統領はこれを根拠に「米国と国際社会を脅かす核とミサイルの挑発はもはやない」と断じたのです。全く実態とかけ離れた主張です。

 エンジンの実験はどこでも可能です。発射台の廃棄にも意味はありません。北朝鮮は移動式の発射台を多数導入済みです。

 場所も判明している東倉里の固定式の発射台は米国の偵察衛星の監視対象で、実用的な代物ではない。核弾頭にしても、北朝鮮は寧辺以外にも製造拠点を持っている。

米韓に亀裂が走る

もう1度聞きます。文在寅政権はこんな子供だましが通ると考えているのですか?

鈴置:今度は別の角度から答えます。「すぐに露見する嘘でも、つくしかなかった」のでしょう。米国の外交関係者はどうせ文在寅大統領を「北朝鮮の使い走り」と見切っている。

 でも、トランプ大統領は11月6日の中間選挙を控え、米朝対話が成功したことにしたい。それなら、トランプ大統領だけは嘘に付き合ってくれるかもしれない――と南北は計算しているのでしょう。

 もちろん中間選挙の結果次第では、トランプ大統領も大嘘に怒り出すかもしれません。でも、南北朝鮮が北の開発した民族の核を温存するにはこの手――大嘘をつき続けるしかないのです。

米国に見切られたことを韓国政府は分かっているのでしょうか。

鈴置:分かっていなければ無能の極みです。大統領の訪米以前から、米メディアは「米国を裏切ると承知しないぞ」と警告を発していました。

 例えばワシントン・ポスト(WP)。9月22日の社説「Trump sees ‘tremendous progress’ on the Koreas where none exists」は平壌での南北首脳会談を取り上げました。

 「米国の最も重要な事項――北朝鮮の核弾頭と米国を打撃する大陸間弾道弾との廃棄に関し、何の実質的な進展をもたらさなかった」と酷評したのです。

 さらに「金正恩体制が意味ある行動に出たわけでもないのに米国に大きな譲歩を迫るハト派の文在寅政権と、トランプ政権の間に亀裂をもたらすかもしれない」と韓国に警告したのです。

・But it offered no real progress in the matter of most import to the United States: the dismantlement of North Korea’s arsenal of nuclear weapons and intercontinental missiles capable of striking the United States.
・Instead, it appeared to raise the risk of a breach between the Trump administration and the dovish South Korean government of Moon Jae-in, which is pushing for significant U.S. concessions even without meaningful action by the Kim Jong Un regime.