テレビで見れば誠実さが分かる

 ブルームバーグが指摘したのは、米外交問題評議会(CFR)などが9月25日に主催した「文在寅氏との対話」での大統領の発言です。その1つが以下です。

・So the Chairman Kim that I experienced, as you may have the same views as well, he is young, but he is also candid, and he respects elders.
・I believe that Chairman Kim is very much prepared to abandon his nuclear program in exchange for economic development.

 文在寅大統領は「金正恩委員長は若いが率直で先輩を立てる人だ。(だから、彼は発言通りに)経済発展のために核を放棄する」と言ったのです。思わずうなる発言です。

 これまで、北朝鮮は非核化で嘘をつき続けてきた(「非核化の約束を5度も破った北朝鮮」参照)。金正恩委員長を信じる人はあまりいないでしょう。

 それは文在寅大統領もよく分かっている。そこで「文在寅氏との対話」の席でさらに弁解しました。引用します。

・And also, we made a point of making efforts to broadcast live all these dialogue and the summits through live TV so that the footage of me meeting Chairman Kim could be seen by the whole world, so that the people can decide for themselves what kind of personality Chairman Kim is.

 (平壌共同声明の発表など)すべての首脳会談の状況を世界に向けテレビで生中継した。それを見れば金委員長が信頼できる人と分かるはずだ――と言ったのです。何ともはや、子供だましの説明です。

 ブルームバーグはこの発言を記事の「落ち」として使いました。この詭弁を見れば「首席報道官」と揶揄するのも当たり前でしょ、と最後に念押ししたのです。

●非核化の約束を5度も破った北朝鮮
▼1度目=韓国との約束▼
・1991年12月31日南北非核化共同宣言に合意。南北朝鮮は核兵器の製造・保有・使用の禁止,核燃料再処理施設・ウラン濃縮施設の非保有、非核化を検証するための相互査察を約束
→・1993年3月12日北朝鮮、核不拡散条約(NPT)からの脱退を宣言
▼2度目=米国との約束▼
・1994年10月21日米朝枠組み合意。北朝鮮は原子炉の稼働と新設を中断し、NPTに残留すると約束。見返りは年間50万トンの重油供給と、軽水炉型原子炉2基の供与
→・2002年10月4日ウラニウム濃縮疑惑を追及した米国に対し、北朝鮮は「我々には核開発の資格がある」と発言
→・2003年1月10日NPTからの脱退を再度宣言
▼3度目=6カ国協議での約束▼
・2005年9月19日6カ国協議が初の共同声明。北朝鮮は非核化、NPTと国際原子力機関(IAEA)の保証措置への早期復帰を約束。見返りは米国が朝鮮半島に核を持たず、北朝鮮を攻撃しないとの確認
→・2006年10月9日北朝鮮、1回目の核実験実施
▼4度目=6カ国協議での約束▼
・2007年2月13日6カ国協議、共同声明採択。北朝鮮は60日以内に核施設の停止・封印を実施しIAEAの査察を受け入れたうえ、施設を無力化すると約束。見返りは重油の供給や、米国や日本の国交正常化協議開始
・2008年6月26日米国、北朝鮮のテロ支援国家の指定解除を決定
・2008年6月27日北朝鮮、寧辺の原子炉の冷却塔を爆破
→・2009年4月14日北朝鮮、核兵器開発の再開と6カ国協議からの離脱を宣言
→・2009年5月25日北朝鮮、2回目の核実験
▼5度目=米国との約束▼
・2012年2月29日米朝が核凍結で合意。北朝鮮は核とICBMの実験、ウラン濃縮の一時停止、IAEAの査察受け入れを約束。見返りは米国による食糧援助
→・2012年4月13日北朝鮮、人工衛星打ち上げと称し長距離弾道弾を試射
→・2013年2月12日北朝鮮、3回目の核実験

慰安婦合意でも背信

韓国政府はこんな子供だましが通ると考えているのですか?

鈴置:韓国では、大声で強く言った者が勝ちなのです。事実や常識は関係ありません。

 9月25日、ニューヨークで日韓首脳会談が開かれました。安倍晋三首相に文在寅大統領は、日韓慰安婦合意に基づき韓国政府が設置した従軍慰安婦関連の財団を解散するかもしれないと通告しました(日経「慰安婦問題、宙に浮く日本の拠出金」=9月27日=参照)。

 慰安婦合意を破棄する手掛かりとしたいのです。ただ、破棄と言えば外交上問題化する。そこで大統領は首相に「合意の破棄や再交渉は求めない」とも語りました。

 しかし、文在寅大統領は9月27日、国連総会で演説する中で日本軍の従軍慰安婦問題にも言及しました(文大統領『終戦宣言に期待』=9月27日=」参照)。

 「我が国は『日本軍の慰安婦』被害を直接体験しました」と語ったのです。演説全文(韓国語)は聯合ニュースで読めます。

 慰安婦合意は「最終的で不可逆的な合意」と規定したうえ「今後、国連等国際社会において、本問題について互いに非難・批判することは控える」と明確に約束しているのです。

 韓国政府は「言及しただけ」と言い逃れるつもりでしょうが、「女性に対する全ての差別と暴力にさらに断固として対応しています」とその前段で述べていますので、非難したも同然です。

 文在寅大統領は2日後に破ることが分かっていることでも、堂々と“約束”したのです。そんな人が「金正恩氏を信じて欲しい」と言ったのですから、ますます信用できません。