
(前回から読む)
北朝鮮を追って、韓国も核武装を目指す。その矛先は北に向くのか、東南に向くのか。
訪米団も署名運動も
前回は、韓国の保守が戦術核兵器を再び韓国に配備するよう米国に求め始めた、という話でした。実現しますか?
鈴置:北朝鮮の核武装は極めて深刻な段階に至りました。今後、何が起こるか、予断を許しません。これまではあり得ないと考えられていた戦術核の再配備も、ないとは言い切れません。
保守政党で野党第1党の自由韓国党は9月13日「再配備」を説得するため、訪米団を派遣しました。
朝鮮日報の「『戦術核配備』要求に訪れた野党議員団に米『核の傘を信じよ』」(9月16日、韓国語版)は「米国務省は『核の傘を信じよ』との原則的な立場を崩さなかったが、韓国民の不安に新たな対策が要ることは共感した」と誇る訪米団の談話を報じました。
これに対し左派の与党「共に民主党」は「(外国の力を引き込んで政争に勝とうとする)事大主義」と批判しました。
自由韓国党は9月16日には、再配備に向け1000万人署名運動を開始すると宣言しました。中央日報の「自由韓国党代表『南北核均衡成し遂げるまで1000万署名運動』」(9月17日、日本語版)で読めます。
国内対立が米国に飛び火したのですね。
鈴置:韓国ではあまり指摘されないのですが、再配備は軍事的には意味がない、というのが定説です。保守派の再配備要求は「北朝鮮が米国まで届く核ミサイルを保有したので、米国はいざという時に守ってくれなくなる」との懸念からです。
専門用語で言えば「拡大核抑止が働かなくなる」――米国が自分の国に核ミサイルが撃ち込まれるリスクを冒してまで韓国を防衛しはしない、との恐怖です。
しかし核の引き金を米国が握る以上は、核兵器をどこに置こうが関係ない。マティス(James Mattis)国防長官も9月13日、再配備に関する記者の質問に答え「核抑止力に配置の場所は重要でない」と答えています。やり取りは国防総省のサイトで読めます。
NATO式の「核共有」も
再配備した戦術核の「引き金」を韓国が持つ可能性はないのですか?
鈴置:あり得ます。NATO(北大西洋条約機構)の一部の国と、米国が実施している核シェアリングという方式があります。
例えば旧西独は「いざという時は米大統領の許可を得て、自国に配備された米国の戦術核兵器を使える権利」を確保しました(「米国も今度は許す?韓国の核武装」参照)。
韓国の再配備論者は当然、これも考えていますし、米国でも「やむなし」と表明する専門家が出始めました。
CNAS・アジア太平洋安全保障プログラムのクローニン(Patrick Cronin)シニアディレクターは8月21日、朝鮮日報の姜仁仙(カン・インソン)ワシントン支局長に、以下のように語りました。
「戦術核の話を切り出すこともできなかったワシントン 『NATO式核共有』検討も」(9月15日、韓国語版)から引用します。
- 万が一、北朝鮮が核兵器を配備する水準まで行けば、韓国も核兵器を持つしかない。不幸なことだが、それが論理的な結論だ。NATO式のデュアル・キー(dual key)方式も考えられる。
ただ「デュアル・キー」つまり「核シェアリング」はあくまで「鍵は2つ」です。韓国が核を使うのには、もう1つの鍵を持つ米国の許可が要るのです。
核抑止論が専門の矢野義昭・元陸将補は「核シェアリングは象徴的な権利に過ぎない」と評しています(「米国も今度は許す?韓国の核武装」参照)。
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