韓国を揺さぶる朝鮮中央通信

THAAD(地上配備型ミサイル迎撃システム)の追加配備を認めたので、文在寅政権は「反米親北」を棚上げしたかと思っていました。

鈴置:追加配備は認めました(「トランプは満座の中で文在寅を叱った」参照)。しかしそれはあくまで「臨時配備」です。

 本格的な環境影響評価を今後実施することになっていて「環境を悪化させることが判明したから、THAADは持ち帰れ」と米軍に言える余地は残してあるのです。

 朝鮮中央通信はこのところ、連日のように「THAAD配備を認めた南の傀儡(かいらい)」を非難しています。9月13日には「THAAD非難記事」を3本も載せました。

 しつこく非難するのは、状況が変化すれば文在寅政権がTHAAD撤収を米国に要求すると北朝鮮が考えているからでしょう。

 一方、戦術核は一度、再配備したら撤収は容易ではない。国民の反対運動が起きるのは間違いありません。韓国では6割前後の国民が核保有に賛成しているのです。反対は約3割です。「戦術核の撤収」は政権が倒れるほどの政争になりかねません。

配備したままにしておけばいいのでは?

鈴置:そんなことになったら「米国の核の傘」にもっと深く取り込まれ、北朝鮮との軍事対立の構図が固定化すると文在寅政権は考えているのでしょう。

 目先の話で言っても、南北対話を北に応じてもらえなくなります。南北和解こそはこの政権の存在意義です。だから米国にどれだけ叱責されても北に対話を懇願するのです

米国のカードをまたも潰した

米政府は「戦術核再配備」を公式に言い出すのでしょうか。

鈴置:文在寅大統領がはっきりと反対した以上、言い出しにくくなりました。米韓の亀裂を世界に見せることになってしまいます。

 文在寅大統領がCNNを通じきっぱり断ったのも、米国からの「再配備の声」を止める目的だったと思います。野党が調子づくのを防ぐためです。

 なお、米国の「非公式の再配備論」は、強力な国連の北朝鮮制裁に応じるよう、中国とロシアに圧力をかける目的もあったと思います。米国は国連安保理での北朝鮮制裁決議の「尻」を9月11日に切っていました。それを前に、脅し材料を見せたのです。

「再配備」がブラフに過ぎないなら、米国に実害はなかったのでは?

鈴置:大ありです。韓国の大統領が否定したことで、米国は「再配備」を中ロ向けの交渉カードとして使えなくなりました。韓国が嫌がるというのに米国が無理やり戦術核を持ち込むわけにもいきません。

 韓国が北朝鮮との対話を言い続けることで、米国が主導する「対北圧力」の力を弱めてきたのと同じ構図です。そして「再配備」は米国が韓国に突き出した「踏み絵」にもなっていた。それを文在寅大統領は蹴り飛ばしたのです。

 8月15日、文在寅大統領は事実上の中立宣言を発し、米国の対北攻撃を牽制しました(「韓国の無神経な『中立宣言』に米軍が怒った」参照)。

 9月1日、北の6回目の核実験が予想される中、青瓦台が「米韓両首脳は電話協議で北朝鮮との対話が大事だと再確認した」と発表し、トランプ大統領からツイッターで叱責されました(「トランプは満座の中で文在寅を叱った」参照)。

 9月14日には韓国政府は北朝鮮への人道支援を検討すると発表しました。「再配備拒否」はこれら一連の「反米親北」政策の一環なのです。度重なるサボタージュに、米政府は怒り心頭に発していることでしょう。