奇妙な聯合電
「トランプが電話に出ない」とは?
鈴置:韓国では「安倍晋三首相は年中トランプ大統領と電話している。しかし文大統領は回数が少ないし、しても安倍の後だ」と問題になっています。
今回も日米の電話協議に1日遅れ、9月4日に米韓首脳の電話協議が実現しました。6回目の核実験後初めての、そしてトランプ大統領が文在寅大統領をツイッターで批判した後、初めての会話となりました。
青瓦台は「韓米首脳間の電話協議の結果と朴洙賢(パク・スヒョン)報道官の書面ブリーフ」(9月4日)で内容を明かしました。
聯合ニュースは「文大統領とトランプ、ミサイル指針の弾頭重量制限の解除に電撃合意」(9月5日、韓国語版)という長い記事を送っています。
この記事はとても変な記事でした。見出しもそれを取っているのですが、韓国が保有できるミサイル弾頭の500キロの重量制限を撤廃してもらったことを延々と書き連ねています。
でも3日前の、9月1日の米韓首脳の電話協議を報じる記事で、「ミサイル指針」はすでに主見出しになっているのです。それを報じた聯合の見出しは「文大統領とトランプが通話……ミサイル指針は韓国の希望水準に改定で合意」(9月1日、韓国語版)でした。
THAADはどうなったのか
なぜ、ニュースでもない「ミサイル指針」の話を長々と書いたのでしょうか。
鈴置:2つ理由があると思います。まず「米韓首脳の関係は本当はいいのだ」と強調したい青瓦台の意向を受けた。「文在寅の要求をトランプが受け入れた」話を、証拠に使ったのです。2度同じ話を読まされる読者はたまったものではありませんが。
記事の最後の方にも「この日の電話協議を契機に、対北朝鮮の政策基調を巡り韓米両国首脳の間に異常な気流があるのではないか、との一部の憂慮はきっぱりと払拭されたと見られる」とあって、青瓦台の意向が臭います。
もう1つは、首脳間で交わされた微妙な話を報じられたくなかったのだと思われます。9月4日の電話協議は40分間。通訳の時間を考えても正味20分あります。弾頭重量の話に20分間も費やしたとは思えない。
聯合の「文大統領とトランプ、ミサイル指針の弾頭重量制限の解除に電撃合意」(9月5日、韓国語版)をよく読むと、後ろの方にTHAADの話がチラリと出てきます。以下です。
- トランプ大統領は文大統領に在韓米軍のTHAAD配備状況を尋ねた。これに対し、文大統領は「THAADの臨時配備を国内の手続きに従い、可能な限り迅速に完了する」と明かした。
面従腹背の文在寅
米朝対立が危険水域に入った今、中立どころか北朝鮮側に寝返り始めた文在寅政権をどやしつける必要にトランプ大統領は迫られています。こういう話は抽象的に語っても効果がない。韓国の立ち位置を問い質す具体的な例として、THAADを使ったと思います。
もちろん実質的にも、不完全なままのTHAADで北と戦えと言われれば、在韓米軍は大いに困ります(「ついに『中立』を宣言した文在寅」参照)。
トランプ大統領は「THAADの完全配備を認めないのなら在韓米軍を撤収する」くらいは言ったかもしれません。
韓国には「米軍出て行け」と叫ぶ左派もいますが、文在寅大統領は今の段階では、そのハラを固めていないと見られるからです。
そして9月7日朝、8000人の機動隊が出動して反対運動を制圧する中、米軍は慶尚北道・星州(ソンジュ)の基地に4基の発射台を搬入しました。文在寅政権がスタートし、4カ月経ってようやくTHAADは正規の6基体制になったのです。
これを期に、文在寅の韓国は米国側に戻るのでしょうか?
鈴置:表面は米国に従うように見せて、裏では北朝鮮との対話を模索していくと思います。この政権の主な公約の1つが南北和解です。その糸口である対話を実現するには、北朝鮮に逆らうわけにはいかない。結局、米国には面従腹背で対するしかないのです。
(次回に続く)
8月21日 | 米韓合同軍事演習「乙支(ウルチ)フリーダムガーディアン」開始(8月31日まで) |
---|---|
8月22日 | 朝鮮中央通信「我々の警告を無視し軍事挑発を仕掛けた以上、無慈悲な報復と容赦ない懲罰を逃れない」と米韓演習を非難 |
8月22日 | トランプ大統領、北朝鮮情勢に関し「何か前向きなことが起きるかも」「彼が我々を尊重し始めたことに敬意」 |
8月23日 | 朝鮮中央通信「国防化学研究所を訪問した金委員長が弾道弾の固体燃料エンジンと弾頭増産を指示」 |
8月25日 | 日韓首脳が電話協議 |
8月26日 | 北朝鮮、日本海に向け短距離弾道弾3発を発射 |
8月29日 | 北朝鮮、日本上空を通過して太平洋に着弾する弾道弾発射 |
8月29日 | 日米首脳が電話協議 |
8月29日 | 国連安保理、弾道弾を発射した北朝鮮を非難する議長声明採択 |
8月30日 | 安倍首相が文大統領、ターンブル首相と電話協議 |
8月30日 | 日米首脳が電話協議 |
9月1日 | 米韓首脳が電話協議 |
9月3日 | 日米首脳、電話協議 |
9月3日 | 北朝鮮、6回目の核実験。「ICBMに搭載する水爆の実験に成功」 |
9月3日 | トランプ大統領、ツイッターで韓国の融和策を批判 |
9月3日 | トランプ大統領、ツイッターで「北朝鮮と取引する全ての国との貿易停止を検討」 |
9月3日 | 日米首脳、この日2回目の電話協議 |
9月4日 | 文大統領、電話協議で安倍首相に「北朝鮮が対話に出るまで制裁を強化」 |
9月4日 | 文大統領、電話協議でプーチン大統領に「北朝鮮への原油禁輸などを検討すべきだ」 |
9月4日 | 国連安保理、北朝鮮の核実験を受け緊急会合 |
9月7日 | 米軍、星州の基地にTHAADの4砲台を追加配備 |
注)日付は現地時間、首脳会談は日本・韓国時間

■「朝鮮半島の2つの核」に備えよ
北朝鮮の強引な核開発に危機感を募らせる韓国。
米国が求め続けた「THAAD配備」をようやく受け入れたが、中国の強硬な反対が続く中、実現に至るか予断を許さない。
もはや「二股外交」の失敗が明らかとなった韓国は米中の狭間で孤立感を深める。
「北の核」が現実化する中、目論むのは「自前の核」だ。
目前の朝鮮半島に「2つの核」が生じようとする今、日本にはその覚悟と具体的な対応が求められている。
◆本書オリジナル「朝鮮半島を巡る各国の動き」年表を収録
『中国に立ち向かう日本、つき従う韓国』『中国という蟻地獄に落ちた韓国』『「踏み絵」迫る米国 「逆切れ」する韓国』『日本と韓国は「米中代理戦争」を闘う』 『「三面楚歌」にようやく気づいた韓国』『「独り相撲」で転げ落ちた韓国』『「中国の尻馬」にしがみつく韓国』『米中抗争の「捨て駒」にされる韓国』 に続く待望のシリーズ第9弾。10月25日発行。
Powered by リゾーム?