米中間でフリーズ
「米国か中国かの二者択一」とのくだり。違和感を持つ日本人もいると思います。
鈴置:朴槿恵政権がTHAAD配備を正式に容認したので、日本では「韓国は海洋勢力側に戻った」と思っている人が多い。でも、それは誤解です。依然として、韓国は二股外交を続けています。
「米中星取表」をご覧下さい。韓国が米国側に戻ったというのなら、南シナ海など重要案件で米国側に立つはずではありませんか。現実にはTHAAD問題以外では、韓国はますます中国側に引きずりこまれているのです。
案件 | 米国 | 中国 | 状況 |
---|---|---|---|
日本の集団的自衛権 の行使容認 |
● | ○ | 2014年7月の会談で朴大統領は習近平主席と「各国が憂慮」で意見が一致 |
米国主導の MDへの参加 |
● | ○ | 中国の威嚇に屈し参加せず。代わりに「韓国型MD(ミサイル防衛)」を採用へ |
在韓米軍への THAAD配備 |
△ | ▼ | 韓国は「要請もなく協議もしておらず決定もしていない(3NO)」と拒否していたが、北朝鮮の4回目の核実験でようやく受け入れた |
日韓軍事情報保護協定 (GSOMIA) |
▼ | △ | 2012年6月、中国の圧力もあり韓国が署名直前に拒否。米も入り「北朝鮮の核・ミサイル」に限定したうえ覚書に格下げして合意 |
米韓合同軍事演習 の中断 |
○ | ● | 中国が公式の場で中断を要求したが、予定通り実施 |
CICAへの 正式参加(注1) |
● | ○ | 正式会員として上海会議に参加。朴大統領は習主席に「成功をお祝い」 |
CICAでの 反米宣言支持 |
○ | ● | 2014年の上海会議では賛同せず。米国の圧力の結果か |
AIIBへの 加盟 (注2) |
● | ○ | 米国の反対で2014年7月の中韓首脳会談では表明を見送ったものの、英国などの参加を見て2015年3月に正式に参加表明 |
FTAAP (注3) | ● | ○ | 2014年のAPECで朴大統領「積極的に支持」 |
中国の 南シナ海埋め立て |
● | ○ | 米国の「明確な対中批判要請」を韓国は無視 |
抗日戦勝 70周年記念式典 |
● | ○ | 米国の反対にもかかわらず韓国は参加 |
(注2)中国はAIIB(アジアインフラ投資銀行)設立をテコに、米国主導の戦後の国際金融体制に揺さぶりをかける。
(注3)米国が主導するTPP(環太平洋経済連携協定)を牽制するため、中国が掲げる。
神戸大学大学院の木村幹教授のよく使う「フリーズした」との表現が、米中間で身動きが取れなくなった韓国の現状を見事に言い当てています。米国に怒られTHAADで顔だけ海側に向けた。しかし、片足はちゃんと大陸に残しているのです。
なぜ、日本では「韓国が海洋勢力側に戻った」との誤解が蔓延しているのでしょうか。
鈴置:外交関係者が「韓国を屈服させ、こちら側に引き戻した」と宣伝しているためでしょう。木村幹教授もそう分析しています(「米中の狭間で『フリーズ』する韓国」参照)。
日本の一部メディアが嫌韓ムードに迎合し「中国寄り外交に失敗した韓国が日本に頭を下げてくる」といったニュアンスで報じていることもあります。
恥知らずの中央日報
THAAD配備も白紙化する可能性があるということですか。
鈴置:あり得ます。配備予定地では「THAADの強力なレーダーが人体に影響を及ぼす」と激しい反対運動が繰り広げられています。このため韓国政府は他の場所を探し始めましたが、そこでも反対運動が起きています。
一般の国民はどう見ているのですか?
鈴置:韓国ギャラップが8月9-11日に「THAAD配備」に対する賛否を聞いています。「デイリー・オピニオン 第223号(2016年8月第2週)」(韓国語)によると「賛成」が56%、「反対」が31%でした。
この時点では「賛成」する人が2倍近くいたことになります。ただ、中国が韓国への報復に本腰を入れたら、「反対」が急速に増えると思われます。
7月8日の配備正式容認の後、ハンギョレなど左派系紙に加え、保守系紙の中央日報も連日のように、反対派の寄稿を載せました。
ナショナリストの趙甲済(チョ・カプチェ)氏が中央日報を読んで「だったらTHAADの代案はあるのか。北朝鮮の核ミサイルから国民を守る方法を示せ」と激怒したほどです。
趙甲済氏は自らが主宰するネットメディアに「中央日報の空想」(7月26日、韓国語)を載せ、厳しく批判しました。前文を訳します。
- 自主国防ができる経済力を持ちながら、勇気や責任感がなく、外国に国防を依存する国家や国民、そしてメディアはどんなことでもする。恥を知らないからだ。中央日報がその証拠である。
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