北朝鮮は洋上で石油などを積み替える「瀬取り」で経済制裁をすり抜けている(写真:防衛省/ロイター/アフロ)

前回から読む)

 「米国から見捨てられる」と韓国の保守が焦り始めた。

保守系紙に「日韓同盟論」

鈴置:韓国の保守系紙、朝鮮日報に日韓同盟論とも受け止められる論文が載りました。金載千(キム・ジェチョン)西江大学教授の寄稿「北朝鮮の非核化交渉、このまま行けば我々は中国の勢力圏に編入」(8月1日、韓国語版)です。結論は以下です。

  • 故・ズビグニュー・ブレジンスキー(Zbigniew Brzezinski)博士は著書『Strategic Vision』で、東北アジアと朝鮮半島で米国の影響力が衰退し中国が躍進した場合、韓国が取り得る選択は、中国への便乗(さらなる依存)、独自の軍事大国化、日本との安保協力のうち1つだと主張した。
  • 隣り合う覇権国(中国)に依存する戦略が一方的な自律性の喪失に直結することは明白だ。中国に対抗しうる我が国の軍事大国化は事実上、不可能だ。
  • 「米国なき北東アジア」を想定した場合、国際規範と自由民主主義を共有する韓日協力は中国の覇権を予防し、牽制効果を持つカードとなる。
  • 国民の情緒が障害になるが、政府が先頭に立って大乗的な見地から韓日関係を前向きに管理・発展させねばならない。

 中国に対抗するには「単なる協力」ではとうてい無理。読む人が読めば、日韓同盟の勧めと受け止める記事です。反日至上主義者からの非難を恐れてでしょう、「軍事同盟」という言葉は一切、使っていませんが。

中国の属国に戻る

気味が悪いですね。突然にすり寄って来るなんて。

鈴置:この寄稿は日本語版にも載ったので、「反日国家が何を言い出したのだろうか」と首を傾げる向きが多かった。注目すべきは「日韓同盟論」もさることながらなぜ今、それが韓国で唱えられ始めたか、です。

なぜでしょう。

鈴置:金載千教授は冒頭で以下のように説明しています。

  • 現在、北朝鮮の非核化が表面的な議題となっているが、水面下では米中がこの問題を契機に東北アジアの勢力再編というもっと大きな争いを繰り広げている。
  • これを見落とすと韓国は知らず知らずのうちに中国の影響圏に編入されるか、取り込まれてしまうであろう。

 今、米中の間で「北朝鮮の非核化」と「米韓同盟の廃棄」が取引され始めました。金載千教授は、同盟を失った韓国は中国の属国に戻ってしまう、と訴えたのです。

北朝鮮の非核化の行方
シナリオ 北朝鮮は誰の核の傘に入るのか? 韓国はどうする?
中国の核の傘を確保 米韓同盟を維持
米国と同盟・準同盟関係に入る 米韓同盟を維持
半島全体が中立化し、国連や周辺大国がそれを保証
自前の核を持つ 北朝鮮の核の傘に入る

今頃、何を言っているのでしょうか。

鈴置:確かに「今頃」です。シンガポールでの米朝首脳会談が決まる過程で、トランプ大統領は韓国への核の傘の提供の中止――つまり、米韓同盟破棄を示唆しています(「『米韓同盟廃棄』カードを切ったトランプ」参照)。

 6月12日に開いた米朝首脳会談でも、米韓合同軍事演習に加え、在韓米軍の撤収にまで言及しました(「米中貿易戦争のゴングに乗じた北朝鮮の『強気』」参照)。

 「外」から見れば、韓国が米国から見捨てられたなと容易に分かります。ただ、韓国人はその現実を認めたくなかったのです。だから「今頃」言い出したのです。