「お人好し」か、それとも……

文在寅大統領の真意は?

鈴置:韓国の左派は大統領を「平和の使者」と素直に称賛しています(「ついに『中立』を宣言した文在寅」参照)。米国の先制攻撃に歯止めをかけさえすれば戦争は起きない、という理屈でしょう。

 「韓国だけが朝鮮半島の軍事行動を決めることができる」との大統領の演説を聞いて快哉を叫んだ「普通の人」もいたことでしょう。韓国では「自分の運命がかかる北の核問題で、自分たちは一切口出しできない」との不満が溜まっていたからです。

 それに「戦争時の韓国の被害は膨大なものになる」と信じられていますから「戦争が避けられる」と、ほっとした人も多いと思います。先ほど述べたように、それは必ずしも正しい判断ではないのですが。

 一方、保守には2つの見方があります。まずは、大統領は軍事的な圧力なしで北朝鮮が核を放棄すると考えている、との「お人好し」説です。

 文在寅大統領は6月20日、米CBSのインタビューで「金正恩の核武装計画は『はったり』に過ぎない。本心は対話を望んでいる」と語っています。

 保守派のもう1つの見方は、米国に軍事的な圧力を緩めさせることで北朝鮮の核武装を幇助する「北のシンパ」説です。

核を持ったまま「南北共闘」

「北のシンパ」ですか!

鈴置:朝鮮日報は先に引用した社説で、「大統領に対する疑念」を匂わせています。以下です。

  • 文大統領が米国の軍事的な措置を防ぐ確実な堤防になってくれれば、南を完全な核の人質にできたと(北朝鮮は)自信を深めることだろう。

韓国人は核の人質になってもいいのですか?

鈴置:韓国の左派には「北朝鮮は同族の国である韓国には核兵器は使わない」と信じる人が多い。

 さらに、北が核を持ったまま南北が和解すれば、北の核兵器は周辺大国ににらみを効かす「民族の核」になる、とも考えています。

 文在寅政権は核兵器保有国には必須の運搬手段である原子力潜水艦の保有に熱心です(「ついに『中立』を宣言した文在寅」参照)。

 北朝鮮は核弾頭を開発できても、原潜を作る能力はない。それなら韓国がその準備をしておこうと考えているのかもしれません。

韓国の「中立宣言」は戦争を避けるための中立に留まらない、という話ですね。

鈴置:一見、中立。でも良く見れば「南北共闘」。ナウアート報道官が人権状況を非難することで北朝鮮が「世界の敵」であると強調したのも、それを牽制するためだったかもしれません。

(次回に続く)

■「北朝鮮の核危機」年表(2017年8月以降)
8月5日 国連安保理、石炭などの全面輸出禁止を含む対北朝鮮制裁決議を採択
8月6日 労働新聞「米国が核と制裁を振り回せば、本土が想像もつかぬ火の海になる」
8月7日 李容浩外相「米国の敵視政策が変わらない限り、核とミサイルで交渉しない」
8月8日 トランプ大統領「北朝鮮は世界が見たこともない炎と怒りに直面するだろう」
8月8日 WP「北朝鮮が弾道ミサイルに搭載可能な核弾頭の生産に成功とDIAが分析」と報道
8月9日 朝鮮人民軍戦略軍「『火星12』でグアムを包囲射撃する作戦計画を慎重に検討」
8月9日 朝鮮中央通信、先制攻撃論に関連「決意すれば瞬時に日本を焦土化できる能力がある」
8月9日 マティス国防相「北朝鮮は体制の終わりや国民の滅亡につながる行動は中止すべきだ」
8月10日 北朝鮮戦略軍司令官「『火星12』4発は島根、広島、高知の上空を通過しグアム沖に着弾」
8月10日 トランプ大統領「グアムに何か起これば、誰も見たことのないことが起きる」
8月10日 GT社説「北朝鮮が米国に向け先にミサイルを発射した際、中国は中立を維持する」
8月11日 トランプ大統領「北朝鮮が浅はかな行動をとるなら軍事的に解決策する準備が完全に整った」
8月11日 トランプ大統領「極めて高レベルの追加制裁を考えている」
8月11日 米中首脳が電話会談
8月12日 米仏首脳が電話会談
8月14日 トランプ大統領、301条適用を念頭に中国の知財侵害の調査を指示
8月15日 金正恩委員長「米国の行動をもう少し見守る。危険な妄動を続けるなら決断」
8月15日 文在寅大統領「朝鮮半島での軍事活動は大韓民国だけが決めることができる」
大好評シリーズ最新刊 好評発売中!
Amazon「朝鮮半島のエリアスタディ 」ランキング第1位獲得!
孤立する韓国、「核武装」に走る

■「朝鮮半島の2つの核」に備えよ

北朝鮮の強引な核開発に危機感を募らせる韓国。
米国が求め続けた「THAAD配備」をようやく受け入れたが、中国の強硬な反対が続く中、実現に至るか予断を許さない。

もはや「二股外交」の失敗が明らかとなった韓国は米中の狭間で孤立感を深める。
「北の核」が現実化する中、目論むのは「自前の核」だ。

目前の朝鮮半島に「2つの核」が生じようとする今、日本にはその覚悟と具体的な対応が求められている。

◆本書オリジナル「朝鮮半島を巡る各国の動き」年表を収録

中国に立ち向かう日本、つき従う韓国』『中国という蟻地獄に落ちた韓国』『「踏み絵」迫る米国 「逆切れ」する韓国』『日本と韓国は「米中代理戦争」を闘う』 『「三面楚歌」にようやく気づいた韓国』『「独り相撲」で転げ落ちた韓国』『「中国の尻馬」にしがみつく韓国』『米中抗争の「捨て駒」にされる韓国』 に続く待望のシリーズ第9弾。10月25日発行。