笑いをこらえる日本

 朝鮮日報の金大中(キム・デジュン)顧問が「大韓民国の素顔」(7月19日、韓国語版)で、THAADで国論が分裂する韓国を以下のように評しました。要約しつつ翻訳します。

  • 周辺国の中で、韓国を見て一番喜んでいるのは北朝鮮のはずだ。THAAD配備問題1つで社会が割れたからだ。
  • 中国は、自分の鼻息1つで台風に直撃されたかのように大騒ぎしている韓国を見て笑っているだろう。
  • 笑いをこらえるのは日本だ。「自由奔放を自慢する韓国だが、実は安保と国防で奔放どころか迷走している」と。
  • 最も深刻なのは米国の反応だ。韓国でTHAADに「拒否権」を発動する動きを見て「こんな国を守ってやる理由はあるのか」と考えているかもしれない。

日本が「笑いをこらえている」とは思えませんが。

鈴置:ええ、日本は「ますます攻撃的になってくる中国にどう立ち向かうか」に神経を張っています。韓国に注意を払う人はあまりいません。

 金大中顧問は、韓国の置かれた際どい状況を強調するため「笑いをこらえる日本」を入れたのでしょう。韓国人は自意識過剰な人たちなのです。さて、このくだりの後に、結論が来ます。

  • 自ら戦争をする(国を守る)決意もなく、周辺国が韓国を見下す状況では、韓国はどんな戦争にも勝てない。それなら有利な側に確実に立って受動的、従属的に暮らし、延命を図るのが次善ではないのか。

同盟破棄で分裂を回避

金大中顧問は「二股外交」を言い出した人ではありませんでしたか? なのに「有利な側に立つ」と言うのですか。

鈴置:ええ、確かに「二股」の提唱者です。しかし、それには朴槿恵政権がものの見事に失敗。そこで「米中を操るなんて難しいことはあきらめ、どちらかの大国の衛星国になるしかない」と、次善の策を訴えたのです。

米中どちらの衛星国になるつもりでしょうか。

鈴置:それは書いてありません。金大中顧問はこのくだりの次に、もう1つの策を提案し、筆を置いています。以下です。

  • さもなければ「中立」を宣言するなどして、最小限の安全を確保するのも1つの方策であろう。北朝鮮のミサイルを阻止するのにさほど効率的でもないTHAAD問題で、我々の素顔があまりにはっきりとしてしまった。

 これが本心と思います。「受動的、従属的に暮らす」衛星国案を本気で主張しているとは思えません。最後に語る「中立案」を引き立てるための伏線と思います。

中立とは米韓同盟を破棄するということですね。

鈴置:はっきりとは書いていませんが、そういうことです。この同盟があるからこそ「THAAD」や「南シナ海」で板挟みとなり、国が分裂するとの認識からでしょう。

 もちろん、少数派となりつつある親米派がこうした意見を聞いたら「板挟み」の原因は米韓同盟ではなく「二股」にあると怒り出すでしょうけれど。

「中立」を担保する自前の核

金大中顧問とは、どんな人なのですか?

鈴置:同姓同名の大統領もいましたが、この政治家は左派。一方、朝鮮日報で長い間、論説を書いてきた金大中顧問は親米保守を代表する有名な記者でした。この人の意見を「保守の声」としてチェックするのが韓国研究者の常道だったのです。

 その金大中顧問が2013年4月に「米国よりも台頭する中国の方が韓国への影響が大きくなる」との理由を掲げ、堂々と「二股外交」を呼び掛けました。外国の研究者も韓国人も、あっと驚いたものです(「保守派も『米中二股外交』を唱え始めた韓国」参照)。

 ただ、その時はまだ、米国との同盟は維持するとの前提でした。しかし3年後の今、米韓同盟の打ち切りを示唆するに至りました。「笑いをこらえる」どころか、時代の移り変わりのあまりの速さに恐ろしささえ感じます。

米韓同盟を打ち切った韓国は、北朝鮮の核にどう対抗するつもりなのでしょうか。

鈴置:自分も核武装するつもりでしょう。

次回に続く)

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