どんな報復をされるか……

朝鮮日報はなぜ、弱気に転じたのでしょうか。

鈴置:配備を決めた日は勢いもあって「中国、何するものぞ」と上から目線で書いた。でも少し時間が経って冷静さを取り戻すと、どんな報復をされるか分からない、と怖くなったと思われます。

 7月11日の社説の引用部分でも「ありとあらゆる方法で報復されるだろう」と書いています。朝鮮日報だけではありません。韓国のほぼすべてのメディアが「どんな形で報復されるか」を国民に詳しく解説したのです。

 例えば中央日報の日曜版、中央SUNDAYの「『韓中関係はこんなものだったのか』…THAAD配備で沸き立つ中国世論」(7月10日、日本語版)は「韓国を狙うための戦略ミサイル部隊の移動」「北朝鮮支援」「政府間対話・交流行事の中断」「韓国製品の輸入規制・不買運動」「訪韓観光客の制限」を予想しました。

 中国共産党の対外威嚇用メディア、環球時報も「5つの対韓制裁」を発表しています(「『中国陣営入り』寸前で踏みとどまった韓国」参照)。

 (1)THAAD関連企業の製品の輸入禁止(2)配備に賛成した政治家の入国禁止と、そのファミリービジネスの中国展開の禁止(3)THAADにミサイルの照準を合わせるなどの軍事的対応(4)対北朝鮮制裁の再検討(5)ロシアとの共同の反撃――の5つです。この記事は中央日報を含め、多くの韓国メディアが引用しました。

「親中色」深める中央日報

「来るなら来い」とは書かない。やはり、韓国人に中国に立ち向かう覚悟はないのですね。

鈴置:もともと、朝鮮日報は「米中二股」が社論。米国と心中するつもりなど毛頭ない。THAAD配備も、政府が決めたから賛成した側面が強い。腰が据わっていないので、中国から大きな圧力がかかれば主張を変える可能性があります。

 東亜日報もいざという時は大きくブレます。2015年9月の天安門での軍事パレードに関し当初、大統領は参加すべきでないと主張していました。が、世論が参加に傾くとそれに追従し、賛成に回りました(「“恩知らず”の韓国」参照)。

 中央日報はTHAAD配備問題を契機に、より露骨に親中色を打ち出すようになりました。左派のハンギョレはもちろん配備に反対です。「米韓日の3国防衛体制」に組み込まれるという理由を掲げました。

 今や韓国紙の中で、根っからの親米派と呼べるのは韓国経済新聞ぐらい。その「韓経」が気を吐きました。

 7月14日の社説「THAADの葛藤、この程度の危機にこんなに怖気づく社会だったのか」(韓国語版)です。7月15日には日本語版にも掲載されました。要約しつつ引用します。

臆病者の内紛

  • THAAD配備をめぐる国論分裂が深刻だ。政界は新しい政争ネタにすることを決意した雰囲気だ。実際にはない「経済報復説」を増幅させ、中国側を代弁する勢力もある。
  • 韓国社会の危機反応のしくみには沈着、科学的分析、忍耐心、勇気などが全くないということなのか、考えさせられる。軽薄な社会風潮はすでに重症だ。
  • 北の核という明示的な安保脅威にも、南シナ海の覇権を狙った中国の大胆な膨張主義を見ながらも、我々の中で争っている。
  • 危機対処ではなく臆病者同士の内紛だ。「壬辰倭乱(イムジン・ウェラン)7年戦争」当時の党派争い、「丙子胡乱」(ピョンジャ・ホラン)当時の葛藤の再現だ。

 「壬辰倭乱7年戦争」(1592-1598年)とは文禄・慶長の役のことです。戦役の前、偵察のために日本に渡った朝鮮朝の使節の中には「秀吉に侵攻意図あり」と見抜いた人もいました。

 しかし「情報の内容」よりも「誰が語るか」つまり、党派性を重んじた朝鮮の朝廷はその報告を無視し、何の戦争準備もしませんでした。

 「丙子胡乱」(1636-1637年)とは明を倒した清に攻められ、悲惨な敗戦を喫した事件です。明から清への交代という大陸の変化を朝鮮朝は読み誤ったのです。そこにも王朝の内紛が絡んでいました。

 韓国人はしばしば「我々は外からの脅威にさらされるたびに国論が分裂し、内紛を起こして亡国の危機に瀕する」と苦い顔で語ります。韓経は「今がまさにそうなのだ」と警鐘を鳴らしたのです。