主導権のない韓国

韓国は合同軍事演習の中止を提案されたら受けるのでしょうか。

鈴置:北との融和を唱え、政権に近いハンギョレが「準備せよ」と書いているところからして、演習中断が文在寅政権の本音でしょう。

 大統領の外交安保特別補佐官である文正仁(ムン・ジョンイン)延世大学特任名誉教授も6月16日、ワシントンで「演習の縮小を交換条件に北朝鮮に核・ミサイル活動の中断を求めるべきだ」と語っています。

 この発言により、米国は文在寅政権を決定的に疑うようになったのですが(「『米韓合同演習』を北に差し出した韓国」参照)。

そうでした。でもそもそも、韓国が朝鮮半島問題で主導権を握ることができるのですか。

鈴置:そこがポイントです。韓国の民族主義者は握るのが当然と考えている。しかし現実には難しい。

 東亜日報は社説「米中経済対話決裂、『中国の圧迫で北の核解決』は遠い道だ」(7月22日、韓国語版)でそれを突きました。

  • 北朝鮮の核・ミサイルはこうなった以上、韓国だけでも韓米同盟だけの問題ではなく、米国の問題となっているのだ。

 北朝鮮が米国まで届くICBMを開発した以上、米国は自分の身を守るために動く。韓国防衛のための米韓同盟とは関係なくなっている。韓国の意見など聞かれない現実を見つめよ、ということです。

 東亜日報はここまでは書いていませんが、仮に南北対話が始まっても米国が必要と判断すれば北朝鮮への空爆は実施する――と見る専門家もいるのです。

反民族主義者に認定

「韓国に主導権はない」。これが妥当な認識ではないのですか?

鈴置:そうなのですが、そこまではっきりとしたもの言いをすると韓国では敗北主義者と非難されかねません。あるいは民族内部の問題の解決を大国に委ねる反民族主義者に認定されます。

 東亜日報が「米中経済対話」を論じる中でさりげなく「不都合な真実」を指摘したのも、そうした理由からかもしれません。

 朝鮮日報の姜天錫(カン・チョンソク)論説顧問も文在寅政権の内政を批判するコラムの最後で「不都合な真実」にチラリと触れています。「強者と格闘してこそ真の改革だ」(7月22日、韓国語版)から引用します。

  • 米上院に「北朝鮮が検証可能で不可逆的な非核化の道に進む前に開城(ケソン)工業団地を再稼働できないようにする」法案が提出された。韓米同盟の歴史で聞いたことも見たこともない話だ。
  • ブレーキとアクセルが助手席の下に付いている自動車の運転席の限界だ。
  • G20会議から帰国後の「(北の核)が我々の最も切迫した問題というのに、我々には解決したり、合意を導く力がない」との大統領の述懐が現実になった。
  • 国の内外で大風呂敷を広げても何の得もない時が来たのだ。

車両運搬車の上の愛車

 

 記事中の「開城工業団地」は北朝鮮への外貨支援のパイプとなっていた南北共同のプロジェクトです。北朝鮮の核・ミサイル開発の進展に対応、朴槿恵(パク・クネ)政権(2013―2017年)が中断しました。文在寅政権はこの再開を公約に掲げています。

 姜天錫論説顧問は、理想がどうであろうと米国の掌の上に載っている現実をベースに政策を組み立てるしかない、と言いたかったのでしょう。

「ブレーキとアクセルがない運転席」とは?

鈴置:「運転席に座る許可を米国から得た」と誇る大統領への強烈な皮肉です。もっと厳しく言えば、文在寅大統領の握るハンドルは偽物かもしれない。

 確かに自動車の運転席には座っている。しかしその車ごと、トランプの運転する車両運搬車に載っている。

 国民からすれば、窓の外の風景は動いている。父親はそれらしくハンドルを回したりし時々、振り向いては「どうだ、お父さんの運転は上手いだろう」と誇る。

 でも本当は、韓国という小型車は大型車の上に載っていて、他人の行きたい方向に運ばれて行くだけなのです。

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