外交部と国防部が抗争

今回の「騒動」の火付け役となったのは中央日報でした。

鈴置:その通りです。7月1日の紙面で、同紙の金永煕(キム・ヨンヒ)国際問題大記者が「配備拒否」を訴えたのです(「『南シナ海』が加速させる『韓国の離脱』」参照)。

 この中国に近いシニア記者は「THAADを拒否しても、韓米同盟はなんとか維持できる。半面、配備すれば韓中関係は危機的状況に陥る」と主張し、韓国人を説得しようとしました。

 しかし、配備拒否を主張したその中央日報でさえ、今となっては「拒否すれば米韓同盟を毀損すると政権が判断した」と書いているのです。

韓国の国防部が配備発表を急いだのに対し、外交部は反対したと聞きました。

鈴置:左派系紙のハンギョレが「外交部長官の反対にもかかわらず『THAAD決定』強行」(7月13日、韓国語版)という特ダネを書きました。これにより「国防部VS外交部」の抗争が世間に知られました。

 ハンギョレは同じ日に日本語版でも「外交部長官の反対押し切り『THAAD配備決定』強行」との見出しで、英語版では「Source: Foreign Minister was opposed to THAAD deployment」と報じました。朴槿恵政権内の米中代理戦争は世界に向け、発信されたわけです。

次期政権がひっくり返す?

外交部は中国の顔色を見て反対したと言うことですか。

鈴置:ええ、もちろん中ロとの外交摩擦が反対の理由です。ハンギョレ・日本語版の記事から引用します。

  • 政府のある関係者は「尹炳世(ユン・ビョンセ)外交部長官は北朝鮮の4回目の核実験と相次ぐ弾道ミサイル発射に対抗し、対北朝鮮制裁の国際協力を構築して強化していかなければならない時期にTHAAD配備を早期決定するのは、中国とロシアの反発など国際協力を損ねるおそれがあるという理由を挙げ、反対意見を明らかにしたと聞いている」と伝えた。

 なお、記事にもあるように厳密に言えば、外交部は「配備するな」と主張したのではなく「配備の早期決定」に反対したのです。

 中国の厳しい対北制裁を引き出すため、米国が「THAAD」をカード化し、すぐには配備に動かないと踏んだこともあるのでしょう(「米国から『ピエロ役』を押し付けられた朴槿恵」参照)。

 実際、7月8日の発表でも「配備は2017年末」と1年半も先に設定したのです。日本の専門家に聞くと、配備にそれほどの時間はかかりません。

 国防部は反対派を抑え込むために「配備はもう決めた」と急いで発表した。しかし米国は、中国に対する交渉材料を可能な限り長く使い続けるために「2017年末」に設定したのでしょう。実際に配備してしまえば「外交カード」として使い勝手が悪くなります。

 ただ、それ以上遅らすと韓国の次の政権が決定をひっくり返すリスクが出てきます。次期大統領選挙は2017年12月で、政権交代は2018年2月25日です。

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