「香港扱い」された韓国

でも、普通の韓国人までもが「従中」し、例えばTHAAD撤去に賛成するでしょうか。

鈴置:普通の人こそが「従中」なのです。李海瓚・元首相の訪中時に「香港並み事件」が起きました。

 特使は大統領の名代ですから、普通は習近平主席と同じ大きさの椅子に小机を挟んで向き合って座ります。実際、過去の特使にはそうした席が用意されました。

 ところが今回、李海瓚特使に与えられたのは「対等の席」ではなく、習近平主席とは離れた場所の「下座」でした。

 朝鮮日報の「中国、特使団に香港行政長官級の低い待遇 首脳会談も確答せず」(5月20日、韓国語版)の写真を見ると、それを確認できます。

「中国の一部」に扱われて、韓国人は怒ったでしょうね。

鈴置:話はここからが興味深いのです。確かに「香港扱い」に各紙は怒りました。でも「そんな中国の言うことをついつい聞いてしまう自分たち」であることを認めもしたのです。

 中央日報の社説「国益と自尊を優先する堂々とした対中外交を展開せよ」(5月25日、韓国語版)には、以下のようなくだりがありました。

  • 中国の態度に懸念を覚える。習近平主席が上席に座り、我が大統領の特使は下座に座らせるという儀典に対する疑念を抱く我々としては、韓国を馴致(じゅんち)しようとの意図が中国にあるのではないかとの思いを禁じ得ないのだ。

蘇る冊封体制

韓国人が「馴致」――飼いならされなければいいだけの話でしょう。

鈴置:そこがポイントです。中国がどう出てこようと「馴致」されなければいいと日本人は思います。でも中国人に上から目線で接せられると、韓国人はごく自然に「馴致」されてしまう。だから「馴致しないで」と社説で中国に頼む、奇妙な光景が出現するのです。

 宗主国と朝貢国の関係――文明の中心地たる中国が周辺の遅れた国々を「馴致」するという世界観――から、中国も韓国も脱していないことがよく分かります。

 中国は韓国人の心情をよく見抜いていて命令する時は、昔の宗属関係を思い出させたうえで言い渡すのです。すると韓国人も自分たちの生命がかかったTHAADの問題でさえ、中国の顔色を見てしまう。

 なお、中央日報の日本語版では、「馴致」は宗属関係を感じさせない「懐柔」という単語に訳されています。

米国も対韓威嚇に本腰

では「文在寅の韓国」は中国と北朝鮮に引きずられ、米国からどんどん離れていくのですか。

鈴置:米国も韓国を威嚇し始めました。米国の武器は「同盟打ち切り」です。米国の朝鮮半島専門家、スナイダー(Scott Snyder)外交問題評議会(CFR)シニア・フェローがNIKKEI Asian Reviewに「Trump-Moon friction points to watch out for」(5月18日)を書きました。

 見出しの「トランプと文の摩擦は警戒を要する」が示す通り、今後予想される米韓の葛藤を分析した記事です。

 スナイダー・フェローは「文政権は(トランプ政権が反対する)早期の南北交渉に乗り出し(北朝鮮へのドル送金パイプとなっている)開城工業団地を再開しそうだ」と書いた後、次のように記しました。

  • A coordinated strategy will be essential: Conflict here would strain the alliance and drain American congressional and public support for South Korea.

 訳せば以下です。

  • 戦略的な協調が重要だ。米韓の対立は同盟を脅かし、米国の議会と世論による韓国への支持に冷や水を浴びせるであろう。