仲人口、再び

でも、文在寅大統領は「完全な非核化の意思を明らかにした」と説明しました。

鈴置:縁談を無理にまとめようと、双方に美しい話をする「仲人口(なこうどぐち)」の典型です。

 米朝会談の開催が話し合われた時から韓国には「この仲人口外交が米朝関係を、さらには韓米関係を破局に追い込みかねない」との危惧がありました(「『文在寅の仲人口』を危ぶむ韓国の保守」参照)。

 5月27日の会見でも、韓国記者が「金正恩委員長の(非核化に関する具体的な)発言を明かして欲しい。北朝鮮が主張してきた段階的な非核化から進展があったのか」と追及しました。

 「仲人口」を疑ったのです。朝鮮中央通信の記事を読めば、誰しもが疑います。が、文在寅大統領は答えを避けたうえ「(米朝の)非核化の意思は同じでも、どう実現するかで両国間の協議が要る」と話をずらしました。

 このやりとりはNEWS1の「一問一答 文在寅大統領 第4回南北首脳会談を自身で説明」(5月27日、韓国語)で読めます。

やはり運転席に座っている!

では、この南北首脳会談は何のために開催したのですか?

鈴置:文在寅政権は「北朝鮮の核問題で主導権を握ることができていない」「それどころか関係国から無視されている」との批判を浴びていました。

 5月16日に予定されていた、北朝鮮との閣僚級会談は当日になってキャセルされてしまいました(「トランプと会うのが怖くなった金正恩」参照)。

 加えて、トランプ大統領の北朝鮮への首脳会談中止通告(「米朝首脳会談中止通告、『最後通牒』で投降促す」参照)。前々日に米韓首脳会談を開いたのに、それも相談されなかった。

 米朝首脳会談は平昌冬季五輪をきっかけに浮上しましたから、韓国人は「我が国が米朝を仲介した。運転席に座った」と胸を張っていた。それが突然、米朝双方から無視されるようになったので、政権は困り果てていました。

 そんな中、南北首脳会談を開き再び、米朝の仲介役を演じることができました。よく見れば「演じている」に過ぎませんが、普通の人は細かいことは気にしません。

 大統領が会見で「日常生活で友達同士が会うようになされた今回の会談には大きな意味がある」と言えば「そうだな」と感じる人が多いと思います。

 閣僚級会談の6月1日開催が決まったので「北から無視された」と国民の不満を多少は解消できるでしょう。

 会談は北朝鮮にとってこそ必要だったのです。会見で大統領が「一昨日(5月25日)午後、金正恩委員長が形式的なことはいっさい抜きにして会いたい」と伝えてきた」と明かしています。

 5月24日のトランプ大統領の首脳会談中止通告に、北朝鮮は震え上がりました。金正恩委員長への書簡は、要は「首脳会談に応じなければ、どうなっても知らないぞ」というものでした。

北朝鮮のわび状

「核戦争をも辞さない」とのくだりもありました。

鈴置:同日の崔善姫(チェ・ソニ)外務次官の談話で「米国がわれわれと会談場で会うか、でなければ核対核の対決場で会うかどうかは全的に、米国の決心と行動いかんにかかっている」なんて突っ張るから、言い返されてしまったのです。

 そこで北朝鮮は、そさくさと「わび状」を書きました。5月25日朝、「会談に応じる」との金桂官(キム・ゲグァン)第1外務次官の談話を発表したのです。

 実は、トランプ書簡以上に、北朝鮮を震撼させたと思われる文書があります。書簡を発表して約2時間後にトランプ大統領が会見で以下のように語ったのです。

 ホワイトハウスの「Remarks by President Trump at Signing of S. 2155, Economic Growth, Regulatory Relief, and Consumer Protection Act」(5月24日、英語)から、関係する部分を引用します。

・I’ve spoken to General Mattis and the Joint Chiefs of Staff. And our military — which is by far the most powerful anywhere in the world and has been greatly enhanced recently, as you all know — is ready if necessary.
・Likewise, I have spoken to South Korea and Japan. And they are not only ready should foolish or reckless acts be taken by North Korea, but they are willing to shoulder much of the cost of any financial burden, any of the costs associated by the United States in operations, if such an unfortunate situation is forced upon us.