リビアの轍は踏まない

 もちろん北朝鮮も米国のそうした腹は分かっている。そこで崔善姫次官の談話でも「戦争になってもやられる一方ではない。リビアと異なりこっちは核武装したのだからな」と肩を怒らせたのです。

・核保有国であるわが国家をせいぜいわずかの設備を設けていじくっていたリビアと比べることだけを見ても、彼がどんなに政治的に愚鈍な間抜けであるのかを推測して余りある。

・ホワイトハウスの国家安保補佐官ボルトンに続いて今回またもや、副大統領のペンスが、われわれがリビアの轍を踏むようになると力説したが、まさにリビアの轍を踏まないためにわれわれは高い代価を払いながらわれわれ自身を守り、朝鮮半島と地域の平和と安全を守ることのできる強力で頼もしい力を培った。

・ところが、この厳然たる現実をいまだに悟れず、われわれを悲劇的な末路を歩んだリビアと比べるのを見れば、米国の高位政客らが朝鮮を知らなくてもあまりにも知らないという思いがする。

体制維持の保証なし

金正恩委員長はトランプ大統領に「電話する」のでしょうか?

鈴置:それは難しいと思います。「米朝首脳会談、3つのシナリオ」をご覧下さい。今の状態で首脳会談を開くことになれば、トランプ大統領は「リビア方式」――2003年のリビア方式で「完全な非核化の即刻実施」を要求します。

 金正恩委員長がこれを飲めば、核の撤去に向けた査察が始まります。シナリオ①です。北朝鮮はある程度の核弾頭とその原材料を隠す作戦でしょうが、米国は徹底的に捜索し、満足するまでは経済援助などの見返りを与えない方針です。

●米朝首脳会談、3つのシナリオ
米国、リビア方式での非核化を要求
北朝鮮が受諾北朝鮮が拒否
①米国などによる核施設への査察開始②米朝対話が継続③米国、軍事行動ないし経済・軍事的圧迫強化

 2度も訪朝して首脳会談に道を開いたポンペオ(Mike Pompeo)国務長官も5月23日、米議会でそう証言しています。VOAの「ポンペオ『米朝会談開催は金正恩による、誤った合意は選択になし』」(5月24日、韓国語版)を引用すると以下です。

・We’re not going to provide economic relief until such time as we have an irreversible set of actions, not words, not commitments, undertaken by the North Korean regime.

 それに、シナリオ①を選んでも金正恩体制が永続する保証はありません。トランプ大統領は5月17日、体制の保証を約束しました。しかし約束を守ってくれる保証はどこにもないのです。

 金正恩政権は人権蹂躙で悪名をはせています。核を取り上げた後、この政権を倒しても誰からも文句は来ません。「後継政権の後見人は中国とする」と密約を結んでおけば、中国も米国による政権打倒の邪魔はしないでしょう(「トランプと会うのが怖くなった金正恩」参照)。

次ページ 北の唯一の逃げ道