苦笑する「日本の右翼」

なるほど、日本の保守は「謝罪による日米分断」を警戒し続けているのですね。

鈴置:もちろん安倍政権も同様です。日経新聞の大石格編集委員が書いた「風見鶏・広島訪問はパンドラの箱」(5月15日)も、その点を突いています。

  • 日本政府がオバマ大統領の謝罪に神経質なのはなぜか。「日本は本当に戦争責任を反省したのか」と、安倍首相が昨年夏の戦後70年談話でケリをつけたはずの難題を蒸し返されるのを懸念してのことだ。
  • 一部の米退役軍人団体は、オバマ氏に広島行きを控えるよう求める書簡を送った。似た動きは中国や韓国にもある。広島訪問は新たなパンドラの箱を開けかねない。

 オバマ大統領の広島行き直前に「バターン死の行進」で生き残った元米軍人の捕虜が同行することが検討されたのも「パンドラの箱」を開けないための努力です。

 もっとも、せっかく日本が困っているというのに、韓国紙はそれを書かないどころか嫉妬しているのです。ハンギョレの社説「オバマ大統領の広島訪問が成果を収めるために」(5月12日、日本語版)は「日本の右翼が大喜び」と書いています。

  • 安倍晋三政権に代表される日本の右翼勢力が今回の訪問を機に、「被害者日本」を浮き上がらせ、歴史に対する責任を回避しようとする動きがはっきりしている。彼らは今回の訪問自体を日本外交の勝利と考えている。

 「日本の右翼」がこれを読んだら苦笑することでしょう。「被害者日本」とのイメージが日米関係を悪化させると一番、懸念している人たちですから。

 彼らの中には、米大統領の広島訪問は「ありがた迷惑」と言い切る人もいます。日本の保守にとって、オバマ大統領の広島訪問は「報奨」でも「贈り物」でもなく「時限爆弾」なのです。

南京に来い

中国は動きますか?

鈴置:もちろんこの機会を逃さず「パンドラの箱」に手を突っ込んで騒ぐでしょう。中国は9月に20カ国・地域(G20)首脳会議を浙江省・杭州で開きます。この際、オバマ大統領や安倍首相を含むG20首脳に南京訪問を求める作戦を練っている模様です。

 もし、安倍首相が南京を訪問しなければ「日本はまだ反省していない」と大声で叫べばいい。日本を孤立に追い込み、日米離間も図る狙いです。

韓国紙もこの動きに注目していますか。

鈴置:チラリと書いてはいます。ハンギョレの「『安倍首相も南京虐殺の現場に訪問を』 オバマ大統領広島訪問に中国で不満」(5月13日、日本語版)がそうです。ただ、今現在は「オバマは日本に謝罪するな」と叫ぶのに忙しい。

今度こそ中国と共闘

韓国政府はどう出るのでしょうか。

鈴置:オバマ広島訪問に関し、韓国政府は表立って反対しませんでした。「安倍議会演説阻止」で大失敗したのに懲りたからでしょう。

 でも「米議会演説の戦い」は韓国が単独で日本と戦う形でした。一方、「南京での歴史戦」は当然、中国が主戦投手。韓国は陰で手助けし、あとで勝ち組に入れてもらう手があります。うまくすれば、今度は米国も味方に引き込めるかもしれません。

 広島訪問を機に韓国メディアが「日本は謝罪していない」と声を揃えています。今のところ謝罪阻止が目的です。が、次第に「安倍は南京に来い」との、中国の要求への声援に変化していくと思われます。

 「慰安婦」でも中韓は政府間でスクラムを組みました(「中韓の『慰安婦共闘』」参照)。「南京」で組むのは当然のことなのです。

中韓の「慰安婦共闘」
2014年7月3日
中韓首脳会談で「慰安婦の共同研究」に合意。共同声明の付属文書に盛り込む(聯合ニュース・韓国語版
2014年12月15日
韓国政府系の東北アジア歴史財団と、中国吉林省の機関、档案局(記録保管所)が慰安婦問題関連資料共同研究のための了解覚書(MOU)を締結(聯合ニュース・日本語版
2015年8月15日
中国国家公文書局が『「慰安婦」--日本軍の性奴隷』第1回文献テレフィルムを公式サイトで公表(人民網日本語版
2015年9月22日
サンフランシスコ市議会が「慰安婦碑または像の設置を支持する決議案」を全会一致で採択。運動の中心となったのは中国系団体(産経新聞
2015年10月12日
中国外交部の華春瑩副報道局長、旧日本軍の慰安婦に関する資料について「ユネスコ世界記憶遺産への登録申請を他の被害国と共同で進める方針」(聯合ニュース・日本語版
2015年10月13日
韓国外交部の魯光鎰報道官、慰安婦資料のユネスコ世界記憶遺産に中韓が共同で登録申請することに関し「推進中の民間団体が判断すべきだ」。推進中の民間団体とは女性家族部傘下の財団法人、韓国女性人権振興院(聯合ニュース・日本語版
2015年10月28日
「中韓の慰安婦像2体」をソウル城北区に設置、除幕式。中韓の彫刻家が製作し、両国市民団体が支援(産経新聞

次回に続く)

■変更履歴
5ページ目の本文中、元米軍人捕虜のオバマ大統領同行について、「決まった」を「検討された」に修正しました。 [2016/05/26 21:45]
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