習近平に60度のお辞儀

米国による所領安堵の保証人に、中国はなれないのですか?

鈴置:金正恩氏もそれに期待して、40日の間に2度も訪中したのでしょう。3月の訪中時には習近平主席の発言にメモをとって見せるなど恭順の意を示しました。

 5月の訪中では、同行した妹の金与正(キム・ヨジョン)朝鮮労働党第1副部長が習近平主席と握手した際、60度ほど腰を曲げてお辞儀をしました。4月27日の南北首脳会談の際、文在寅大統領と握手した金与正氏は頭を全く下げなかったというのに。

 中央日報の「文大統領と直立で握手した金与正氏、習近平主席に腰曲げてあいさつした理由」(5月13日、日本語版)は頭の下げ方が完全に異なる2枚の写真を並べて載せました。金正恩一家はなりふり構わず、中国に保証人になってくれるよう土下座したのです。

効果はあるでしょうか?

鈴置:ないと思います。北朝鮮は自分が困った時はヘコヘコと頼んできますが、状況が変わるとすぐに掌を返します。そんな国を信用するほど中国はお人好しではありません。

 それに、中国には金正恩体制を支える積極的な理由がないのです。今は、米国が怒り出して空爆に踏み切らないよう「後ろ盾になるから米国との首脳会談に臨め」と金正恩氏の頭をなでている。

 でも、北朝鮮が核を放棄した後は「金正恩体制存続」のメリットは中国にない。強権的で常に不安定さをはらむこの政権よりも、もっと自分の言うことを聞く政権を押し立てたいと願うでしょう。

 もし米国が金正恩体制の打倒に乗り出せば、そのどさくさにまぎれて中国が朝鮮半島での影響力拡大に動く可能性が極めて高い(「しょせんは米中の掌で踊る南北朝鮮」)。

誰もが五里霧中

その中国の本心を北朝鮮も分かっている?

鈴置:もちろんです。だから金正恩氏は米朝首脳会談に容易には踏み切れない。これまで北朝鮮は「核をやめる」と周辺国を騙しては、援助を取り付けてきた。

 今度もそのつもりだったのでしょうが、「何をするか分からない」トランプ大統領が相手ではそうはいかないことにようやく気が付いた。下手に交渉すれば、我が身を滅ぼしかねないのです。

 会談まで1カ月を切る5月16日になって「首脳会談などしなくたっていい」と言い出したことからも、北朝鮮の困惑ぶりがうかがえます。

 トランプ大統領も5月17日の会見で「何が起こるか見守ろう(we’ll see what happens. )」と述べています。誰しもが五里霧中なのです。

次回に続く)

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孤立する韓国、「核武装」に走る

■「朝鮮半島の2つの核」に備えよ

北朝鮮の強引な核開発に危機感を募らせる韓国。
米国が求め続けた「THAAD配備」をようやく受け入れたが、中国の強硬な反対が続く中、実現に至るか予断を許さない。

もはや「二股外交」の失敗が明らかとなった韓国は米中の狭間で孤立感を深める。
「北の核」が現実化する中、目論むのは「自前の核」だ。

目前の朝鮮半島に「2つの核」が生じようとする今、日本にはその覚悟と具体的な対応が求められている。

◆本書オリジナル「朝鮮半島を巡る各国の動き」年表を収録