「人間のくず」が語る真実

結局、北朝鮮は取引に応じるのでしょうか。

鈴置:北は核を簡単には手放せない。金正恩委員長にとって核は権力の基盤です。手放せば権力も維持できないと考えているはずです。

 2016年、北朝鮮から韓国に亡命した太永浩(テ・ヨンホ)という外交官がいます。駐英大使館公使でした。2018年5月16日、ソウルの国会議員会館で講演し、以下のように語りました。

 ハンギョレ新聞の「『人間ゴミ』…北朝鮮がテ・ヨンホ元公使を猛非難した理由は?」(5月17日、日本語版)から発言を引きます。

・北朝鮮が要求する「体制安全保障」は結局、金日成(キム・イルソン)家門の世襲統治が永遠に存在できるようにすることだ。
・核廃棄の過程が北朝鮮の絶対権力構造を崩す過程につながることは絶対に受け入れられない。(真の核廃棄のような)そんな奇跡は起こらないだろう。

 韓国では、南北閣僚級会談のドタキャンはこの発言も関係したとの見方があります。先ほど引用したハンギョレの記事もそう書いています。

 確かに「朝鮮中央通信社が朝鮮に反対する大規模の連合空中訓練を行った米国と南朝鮮当局を糾弾」は、名前をあげませんでしたが、太永浩元公使を「人間のくず」と決めつけ、韓国政府を非難しています。

・天下にまたといない人間のくずまで「国会」に立たせてわれわれの最高の尊厳と体制を謗り、板門店宣言を誹謗、中傷する行為を公然と強行するように放置している。

「金正恩除去」で困る国はない

図星を突かれると、狼狽して怒るものです。

鈴置:体制維持のためには核はなかなか手放せない――。それはトランプ大統領もよく分かっている。だからこそ「お前を殺すことに躊躇しないぞ。核を握りしめて死ぬつもりか」と脅すわけです。

殺されることへの恐怖から、核放棄を受け入れませんか。

鈴置:それが一番、平和的な解決法です。ただ、「殺されない」選択を選ぶにしろ、金正恩委員長には問題が残ります。

 核を放棄したら本当に、米国が「保護」してくれるのでしょうか。トランプ大統領が約束を守る保証はどこにもないのです。

 イラン核合意だって、国益に反すると判断したトランプ政権は世界の反対を押し切って離脱しました。米朝首脳会談を準備する最中のことでした(「北朝鮮の非核化を巡る動き」参照)。

 北朝鮮は人権蹂躙国家だし、約束を破り続けている。米国がそんな北朝鮮を攻め滅ぼしても、非難する国はないでしょう。抑圧されている北朝鮮の人々も大喜びします。

自業自得です。

鈴置:困るのは、金正恩政権とスクラムを組んでいるつもりの――北朝鮮から見れば「使い走り」の文在寅政権だけ。あとは韓国や日本、米国の北朝鮮支持グループぐらい。

●北朝鮮の非核化を巡る動き(2018年)
1月1日金正恩「平昌五輪に参加する」
1月4日米韓、合同軍事演習の延期決定
2月8日北朝鮮、建軍節の軍事パレード
2月9日北朝鮮、平昌五輪に選手団派遣
3月5日韓国、南北首脳会談開催を発表
3月8日トランプ、米朝首脳会談を受諾
3月25―28日金正恩訪中、習近平と会談
4月1日頃ポンペオ訪朝、金正恩と会談
4月17―18日日米首脳会談
4月21日北朝鮮、核・ミサイル実験の中断と核実験場廃棄を表明
4月27日南北首脳会談
5月4日日中と中韓で首脳の電話協議
5月7-8日金正恩、大連で習近平と会談
5月8日米中首脳、電話協議
  トランプ、イラン核合意から離脱を表明
5月9日ポンペオ訪朝、抑留中の3人の米国人を連れ戻す
  日中韓首脳会談
  米韓首脳、電話協議
5月10日日米首脳、電話協議
5月16日北朝鮮、開催当日になって南北閣僚級会談の中止を通告
5月16日北朝鮮、「一方的に核廃棄要求なら朝米首脳会談を再考」との談話を発表
5月20日米韓首脳、電話協議(米東部時間では5月19日)
5月22日米韓首脳会談
5月23~25日北朝鮮、米韓などのメディアの前で核実験場を破壊
6月8-9日G7首脳会議、カナダで
6月12日史上初の米朝首脳会談、シンガポールで
「米朝」の後、日米中南北の間で2カ国首脳会談か