猫なで声と棍棒

「一方的な核放棄には応じない」と言い出した北朝鮮に対し「だったら空爆するぞ」と言い返した……。

鈴置:ただ、トランプ大統領は棍棒を見せるだけではなく、猫なで声でささやきもしました。以下です。

・ The Libyan model that was mentioned was a much different deal. This would be with Kim Jong-un ─ something where he’d be there, he’d be in his country, he’d be running his country.
・His country would be very rich. His people are tremendously industrious.

 「言及された(2011年の)リビア方式は、取引とはほど遠いものだった。一方、金正恩氏には取引を持ちかけている。それに応じれば彼は国に留まり、国を統べ続けることになる」と誘ったのです。

 金正恩氏に体制存続の保証を与えた――所領を安堵したのです。加えて「国は豊かになる。北朝鮮の国民は勤勉だ」とニンジンも提示しました。

猫なで声というか、脅しと言うか……。

鈴置:猫なで声を使うからこそ、棍棒に凄味が出るのです。さらにトランプ大統領は、カダフィやイラクのサダム・フセインになりたいのかと金正恩委員長を問い詰めました。

・We never said to Qaddafi, “Oh, we’re going to give you protection. We’re going give you military strength. We’re going to give you all of these things.” We went in and decimated him. And we did the same thing with Iraq.

 我々はカダフィには「保護を与えるし、軍事的な強みも渡す。何でもだ」などと言わなかった。我々は彼を滅ぼした。同じことはイラクでもやった――。これを聞いた金正恩委員長は震えあがったことでしょう。

米朝同盟はあり得るか

核放棄の見返りとして示した「軍事的な強み」とは?

鈴置:会見に出た記者は「在韓米軍の削減」を指すと考えたようです。「Reduce U.S. troop level is a possibility in South Korea?」と聞いています。

 大統領はそれに対し「今は明かせないが十分な保護だ」「かつてない取引だぞ」などと、思わせぶりな回答をしています。

・Well, I’m not going to talk about that. We’re going to say that he will have very adequate protection, and we’ll see how it all turns out. I think this: The best thing he could ever do is to make a deal.

 トランプ大統領は「朝鮮半島すべての非核化」つまり「米韓同盟の廃棄」の可能性を示唆するようになりました(「『米韓同盟廃棄カード』を切ったトランプ」参照)。

 「核を捨てたら、米韓同盟を廃棄してもいい」とまで持ちかけている可能性が高い。北朝鮮に対するこれ以上の保護はないのです。

 もちろん、米朝が同盟を結ぶという手もありますが、それはさすがに中国が許さない。一方、米国内からも強い反対が起きるでしょう。北朝鮮は名うての人権蹂躙国家だからです。トランプ大統領自身も2017年11月8日の韓国国会演説で、金正恩政権の悪行の数々を列挙しています。

■トランプ大統領の韓国国会演説(2017年11月8日)のポイント(1)

北朝鮮の人権侵害を具体的に訴え

  • 10万人の北朝鮮人が強制収容所で強制労働させられており、そこでは拷問、飢餓、強姦、殺人が日常だ
  • 反逆罪とされた人の孫は9歳の時から10年間、刑務所に入れられている
  • 金正恩の過去の事績のたった1つを思い出せなかった学生は学校で殴られた
  • 外国人を誘拐し、北朝鮮のスパイに外国語を教えさせた
  • 神に祈ったり、宗教書を持つクリスチャンら宗教者は拘束、拷問され、しばしば処刑されている
  • 外国人との間の子供を妊娠した北朝鮮女性は堕胎を強要されるか、あるいは生んだ赤ん坊は殺されている。中国人男性が父親の赤ん坊を取り上げられたある女性は「民族的に不純だから生かす価値がない」と言われた

北朝鮮の国際的な無法ぶりを例示

  • 米艦「プエブロ」の乗員を拿捕し、拷問(1968年1月)
  • 米軍のヘリコプターを繰り返し撃墜(場所は軍事境界線付近)
  • 米偵察機(EC121)を撃墜、31人の軍人を殺害(1969年4月)
  • 韓国を何度も襲撃し指導者の暗殺を図った(朴正煕大統領の暗殺を狙った青瓦台襲撃未遂事件は1968年1月)
  • 韓国の艦船を攻撃した(哨戒艦「天安」撃沈事件は2010年3月)
  • 米国人青年、ワームビア氏を拷問(同氏は2016年1月2日、北朝鮮出国の際に逮捕。2017年6月に昏睡状態で解放されたが、オハイオに帰郷して6日後に死亡)

「金正恩カルト体制」への批判

  • 北朝鮮は狂信的なカルト集団に支配された国である。この軍事的なカルト集団の中核には、朝鮮半島を支配し韓国人を奴隷として扱う家父長的な保護者として指導者が統治することが宿命、との狂った信念がある