目の上のたんこぶ

北朝鮮にとって、ボルトン氏は目の上のたんこぶですね。

鈴置:だから、北朝鮮はトランプ(Donald Trump)大統領に対し「ボルトンを外せ」「外さないと、対話は進展しないぞ」とも威嚇しました。金桂官次官の談話はこう続きます。

・われわれは、すでにボルトンがどんな者であるかを明白にしたことがあり、今も彼に対する拒否感を隠さない。
・トランプ行政府がこれまで朝米対話が行われるたびにボルトンのような者のため紆余曲折を経なければならなかった過去史を忘却して、リビア核放棄方式だの何のと言う、えせ「憂国の士」の言葉に従うなら今後、朝米首脳会談をはじめ全般的な朝米関係の展望がどうなるかということは火を見るより明らかである。

トランプ大統領はどう答えましたか?

鈴置:「非核化に応じれば、体制は保証する」と頭をなでました。一方で「首脳会談に応じないと強硬策――空爆という意味でしょうが――に出るぞ」と脅しました。

 5月17日のホワイトハウスでの会見で「ボルトン氏が主張するリビア方式が北朝鮮を怒らせたが」との質問が出ました。トランプ大統領は「北朝鮮にリビア方式を当てはめるつもりは全くない」と答えました。

・the Libyan model isn’t a model that we have at all, when we’re thinking of North Korea.

 そして、「米国はリビアを滅ぼした」「カダフィ体制を維持するとの取引はなかった」などと付け加えたのです。

・In Libya, we decimated that country. That country was decimated. There was no deal to keep Qaddafi. The Libyan model that was mentioned was a much different deal.

2011年のリビア方式

話が変ですね。

鈴置:その通り、話がずれているのです。2003年、米国はリビアを攻撃しなかったし、滅ぼしもしなかった。では、大統領の言及した「リビア方式」とはいったい何なのでしょうか。

 CNNの「President Trump dismisses "Libyan model" on North Korea」は、トランプ大統領が語ったのは「2011年のリビア方式」のようだと解説しました。

 中東で独裁打倒運動が盛り上がった「アラブの春」――。2011年にはリビアでもカダフィ政権が転覆しました。当初は内戦でしたが、途中から米英仏などが「反政府派への弾圧」を理由に、政府軍を空爆するなど軍事介入しました。

・But while Bolton was referring to the dismantling of Libya's weapons of mass destruction program, Trump appeared to refer to the "Libyan model" as the subsequent military intervention in Libya years later that removed Moammar Gadhafi from power.

 トランプ大統領は金桂官談話が「2003年のリビア方式」を持ち出したのを利用して、独裁者カダフィが殺された「2011年のリビア方式」に話を振った。そして、対話に応じず滅ぼされたカダフィになりたいか、と脅し返したのです。

 単に勘違いしただけだったかもしれませんが、結果は同じことです。

 「リビア」という単語を使ってトランプ大統領の真意を説明すれば「2003年のリビア方式を拒否するのなら、2011年のリビア方式を適用するぞ」ということになります。

トランプ大統領は譲歩したわけではないのですね。

鈴置:もちろんです。譲歩したとの誤解が広まったのは、2つの「リビア方式」をごっちゃにした記事が流れたからです。

 例えば、AFPの5月18日の日本語版の記事の見出しは「トランプ氏、北朝鮮非核化の『リビア方式』否定」でした。

 「リビア方式否定」との見出しを付けるのなら「トランプ氏、空爆を実施した『2011年のリビア方式』を否定」とすべきだったのです。

 この記事の更新された本文では、2011年のリビアの状況にも触れていますが、トランプ大統領の「リビア方式」がそれを指すとははっきり書いてない。そこで編集者は「非核化のリビア方式」との見出しを付けたままにしたのでしょう。