板門店宣言で同盟破棄

韓国が米国よりも先に「半島全ての非核化」を宣言していた……。

鈴置:その通りです。板門店宣言こそは米韓同盟の破棄宣言だったのです。「南北の和解」をテーマにした「政治ショー」に惑わされ、見落とされたのですが。板門店宣言には以下のくだりがあります。

 韓国政府が発表した日本語の報道資料「韓半島の平和と繁栄、統一に向けた板門店宣言」から引用します。

・南と北は、完全な非核化を通じて核のない韓半島を実現するという共通の目標を確認した。

 「核のない韓(朝鮮)半島」とは、どう読んでも「朝鮮半島全ての非核化」を意味します。韓国の方が先に米国に三行半を突きつけたわけで、米国も遠慮なく同盟廃棄をカードとして使えるようになったのです。

米国に出て行けと言ったのに、米国が核の傘を維持してくれると韓国人は考える……なぜでしょうか。

鈴置:「米国はアジア大陸に兵を置き続けたいのだ」との思い込みが韓国人にはあります。だから、どんなに米国を裏切ろうと同盟は引き続き「核の傘」は提供し続ける――と信じ込んでいるのです。

核を隠し続ける北朝鮮

結局、米朝首脳会談では北朝鮮の完全な非核化と米韓同盟の廃棄という取引が交わされるのでしょうか。

鈴置:そう簡単にはいかないと思います。北朝鮮は簡単に核を手放さないからです。もし米韓同盟を破棄することになれば、中朝同盟も名実ともに破棄することになるでしょう。

 すると北朝鮮は核保有国に囲まれながら、自前の核も同盟を持たない、極めて不安定な状態に置かれます。それを解消するために、周辺大国が朝鮮半島全体の中立を担保するというアイデアも語られると思います。

 が、そうだとしても金正恩政権と韓国の民族主義者は周辺国のお情けにすがる平和には満足しないはずです。金王朝は歴代、自立のために国民に犠牲を強いて核武装を進めてきたのです。

 4月20日の朝鮮労働党・中央委員会総会が採択した「決定書」も核武装宣言でした(「しょせんは米中の掌で踊る南北朝鮮」参照)。

 「板門店宣言」はその北に、南が協力するという念書でもありました(「『民族の祭典』に酔いしれた韓国人」参照)。

 現在、北朝鮮は数十発の核弾頭を保有すると見られています。完全な非核化を約束しても、その半分を米国に差し出すだけで、残りは隠し持って事実上の核保有国であり続ける作戦でしょう。

「将来の核」にも歯止め

米国もそれは分かっているのですか?

鈴置:もちろんです。だから米国はいかに困難であろうと、徹底的な査察を実施して核弾頭をすべて取り上げるつもりです。それに加え今後、北朝鮮が核兵器を作れないよう、濃縮ウランなどの製造も禁止する方針です。

 ボルトン(John Bolton)大統領補佐官(国家安全保障問題担当)が5月8日、これを明確に要求しました。会見で「米国の北朝鮮に対する要求は、南北共同非核化宣言に立ちかえることだ」と述べたのです。ホワイトハウスの「Press Briefing by National Security Advisor John Bolton on Iran」で読めます。

 1991年12月に合意し、1992年2月に発効した南北共同非核化宣言は核兵器に加え、核燃料の再処理施設、ウラン濃縮装置まで一切、南北朝鮮は持たない、と定めています。

●非核化の約束を5度も破った北朝鮮
▼1度目=韓国との約束▼
・1991年12月31日南北非核化共同宣言に合意。南北朝鮮は核兵器の製造・保有・使用の禁止,核燃料再処理施設・ウラン濃縮施設の非保有、非核化を検証するための相互査察を約束
→・1993年3月12日北朝鮮、核不拡散条約(NPT)からの脱退を宣言
▼2度目=米国との約束▼
・1994年10月21日米朝枠組み合意。北朝鮮は原子炉の稼働と新設を中断し、NPTに残留すると約束。見返りは年間50万トンの重油供給と、軽水炉型原子炉2基の供与
→・2002年10月4日ウラニウム濃縮疑惑を追及した米国に対し、北朝鮮は「我々には核開発の資格がある」と発言
→・2003年1月10日NPTからの脱退を再度宣言
▼3度目=6カ国協議での約束▼
・2005年9月19日6カ国協議が初の共同声明。北朝鮮は非核化、NPTと国際原子力機関(IAEA)の保証措置への早期復帰を約束。見返りは米国が朝鮮半島に核を持たず、北朝鮮を攻撃しないとの確認
→・2006年10月9日北朝鮮、1回目の核実験実施
▼4度目=6カ国協議での約束▼
・2007年2月13日6カ国協議、共同声明採択。北朝鮮は60日以内に核施設の停止・封印を実施しIAEAの査察を受け入れたうえ、施設を無力化すると約束。見返りは重油の供給や、米国や日本の国交正常化協議開始
・2008年6月26日米国、北朝鮮のテロ支援国家の指定解除を決定
・2008年6月27日北朝鮮、寧辺の原子炉の冷却塔を爆破
→・2009年4月14日北朝鮮、核兵器開発の再開と6カ国協議からの離脱を宣言
→・2009年5月25日北朝鮮、2回目の核実験
▼5度目=米国との約束▼
・2012年2月29日米朝が核凍結で合意。北朝鮮は核とICBMの実験、ウラン濃縮の一時停止、IAEAの査察受け入れを約束。見返りは米国による食糧援助
→・2012年4月13日北朝鮮、人工衛星打ち上げと称し長距離弾道弾を試射
→・2013年2月12日北朝鮮、3回目の核実験