テレビを通じ合意を確認

「新たな対案」とは?

鈴置:具体的には報じていませんが、トランプ会見から見て「半島全てを非核化する」――北朝鮮が核を完全放棄したら米韓同盟を廃棄する、との提案でしょう。

 一連の動きをまとめると、こうです。まず、ポンペオ長官が金正恩委員長に口頭で「米韓同盟破棄」の対案を伝えた。すると、朝鮮中央テレビを通じ、金正恩委員長が「それなら非核化に応じる」と答えた。

 それを確認したトランプ大統領がアンドリュース基地での会見を通じ「米朝首脳会談はその線で進めよう」と金正恩委員長に通告した――のです。

 北朝鮮側が金正恩委員長の応諾を伝える際、朝鮮通信など活字メディアを使わなかったのは、トランプ大統領のメッセージが口頭だったことに対応したものと思われます。

 両者が「米韓同盟の廃棄」とはっきり言わなかったのはもちろん、世界にパニックを引き起こさないためでしょう。

 その甲斐あって「半島全てを非核化する」との、よく読めば目をむく発言はさほど注目されませんでした。

 世界のメディアは北朝鮮から解放された3人の韓国系米国人に焦点を当てました。さらにそのニュースの約8時間後にはトランプ大統領が米朝会談の日時と場所をツイッターで明かしました(「米朝首脳会談、6月12日にシンガポールで開催」参照)。「半島全てを非核化」発言はますます関心の外に置かれたのです。

韓国紙も見落とした

韓国メディアもこの大ニュースを見落としたのですか?

鈴置:見落としました。翌5月11日の朝刊では、私の見た限りですが、朝鮮日報で外交を担当する金真明(キム・ジンミョン)記者だけが「半島全ての非核化」に注目しました。

 「トランプと金正恩は体制を保証し『2020大統領選挙前のCVID』で握ったか」(韓国語版)です。

 韓国では珍しい、原典に当たる記者です。ただ、金真明記者は米朝首脳会談が抽象的なメッセージの交換に終わる可能性の傍証として「半島全ての非核化」発言をとらえました。「米韓同盟廃棄」を呼ぶ重大な発言とは考えなかったのでしょう。

 韓国の保守系大手3紙が「半島全ての非核化」に言及する社説を掲載したのは5月12日でした。朝鮮日報の社説「北に『非核化』の対価として何を渡すのか、説明の時が来た」(韓国語版)の関連部分を訳します。

・もしこれ(半島全ての非核化)が、トランプ大統領が韓米同盟や在韓米軍を北朝鮮に差し出すカードとして使うのなら深刻な話だ。
・米国が将来、在韓米軍の撤収、位置付けの変化、米軍引き上げの口実になるような言質を北側に与えないかを確認せねばならない。

 東亜日報の社説「シンガポール米朝会談、完全な非核化で『68年敵対』終了を」(日本語版)の危機感はやや薄かった。

・米国が韓米合同軍事演習での核戦略資産の韓半島展開中止などに同意した可能性がある。「韓半島全体の非核化」が核の傘の範囲から韓半島を除く極端なレベルにまで拡大する懸念はないのか、韓国政府は綿密にチェックしなければならない。