「言いつけ方式」は藪蛇に
韓国人は周辺大国を自分が操っている、という話が好きですね。
鈴置:「我々はいつも周辺大国の都合で突き動かされている」との現実認識があるためでしょう。
韓国紙を読んでいると、時々こういう気宇広大な記事に出くわします。中国の戦国時代に遊説家――武力は持たず、口舌だけで諸侯を動かした人々が活躍しました。彼らこそが韓国知識人の理想の姿なのかもしれません。
では「全斗煥方式」と言いますか「言いつけ方式」で「トランプ大統領」を説得できるのでしょうか。
鈴置:難しい、というか藪蛇になると思います。仮に、韓国が説得に成功し、在韓米軍の駐留経費のなにがしかを日本に支払わせることで米韓が合意したとします。
すると日本が「トランプ大統領」に対し「米韓同盟はいつまで持つのですか。韓国は米国よりも中国の言うことを聞くようになっているようですが」と尋ねるのは間違いありません。
トランプ氏の外交・安保認識は現実と比べ、10年は遅れています。そこで最新の状況を調べ、朴槿恵(パク・クンヘ)政権下の韓国が「中国側の国」になっていることにようやく気がつくことでしょう。
AIIB債も韓国が引き受け
普通の米国人は「韓国の寝返り」にまだ気づいていないのですね。
鈴置:外交関係者は別として、普通の人は中韓関係などに関心を払いません。でも、いったん注目を集めると、状況は変わるでしょう。
ことに「トランプ大統領」の関心が深い経済分野で、韓国の裏切りが目立つからです(「米中星取表」参照)。
案件 | 米国 | 中国 | 状況 |
---|---|---|---|
日本の集団的自衛権 の行使容認 |
● | ○ | 2014年7月の会談で朴大統領は習近平主席と「各国が憂慮」で意見が一致 |
米国主導の MDへの参加 |
● | ○ | 中国の威嚇に屈し参加せず。代わりに「韓国型MD」を採用へ |
在韓米軍への THAAD配備 |
△ | ▼ | 韓国は米国からの要請を拒否していたが、2016年2月7日に「協議を開始」と受け入れた |
日韓軍事情報保護協定 | ▼ | △ | 中国の圧力で署名直前に拒否。米も入り「北朝鮮の核・ミサイル」に限定したうえ覚書に格下げ |
米韓合同軍事演習 の中断 |
○ | ● | 中国が公式の場で中断を要求したが、予定通り実施 |
CICAへの 正式参加(注1) |
● | ○ | 正式会員として上海会議に参加。朴大統領は習主席に「成功をお祝い」 |
CICAでの 反米宣言支持 |
○ | ● | 2014年の上海会議では賛同せず。米国の圧力の結果か |
AIIBへの 加盟 (注2) |
● | ○ | 米国の反対で2014年7月の中韓首脳会談では表明を見送ったものの、英国などの参加を見て2015年3月に正式に参加表明 |
FTAAP (注3) | ● | ○ | 2014年のAPECで朴大統領「積極的に支持」 |
中国の 南シナ海埋め立て |
● | ○ | 米国の対中批判要請を韓国は無視 |
抗日戦勝 70周年記念式典 |
● | ○ | 米国の反対にも関わらず韓国は参加 |
(注2)中国はAIIB(アジアインフラ投資銀行)設立をテコに、米国主導の戦後の国際金融体制に揺さぶりをかける。
(注3)米国が主導するTPP(環太平洋経済連携協定)を牽制するため、中国が掲げる。
金融による米国の世界支配を崩そうと、中国がAIIB(アジアインフラ投資銀行)を設立しました。韓国は米国の反対を押し切って参加しました。
さらにAIIBの無格付けの債券も、韓国は引き受けることにしました。時事通信が「AIIB債、無格付け発行=設立当初、韓国引き受けか」(2015年12月3日)で報じています。
2015年12月8日、韓国政府は中国市場で30億元(1元=約16.5円)の人民元建て国債を発行しました。もちろん初めてのことで、人民元の国際化への援護射撃です。
「強いアメリカ」の復活を旗印に掲げるトランプ氏が、米国の足を引っ張る中国のお先棒を担ぐ韓国に対し、激怒するのは間違いありません。
「米国はもう、世界の警察官ではない」と繰り返すオバマ(Barack Obama)大統領でさえ「中国を批判しろ」と朴槿恵大統領を満座の中で難詰したのです(「蟻地獄の中でもがく韓国」参照)。
契約違反の店子
韓国のやっていることは「ただ乗り」どころか「利敵行為」ですからね。
鈴置:「トランプ大統領」は韓国の「追い出し」を直ちに指示するでしょう。それまで韓国は日本やドイツと同様、自分の所有する不動産に相場よりも安く入居するテナントと見なしていた。
ところがよく調べると、韓国は隣のビルとの間の壁に穴を開けて行き来している。もちろん、貸しビルは無茶苦茶に……。
こんな状況が判明した以上、貸借契約を守らず、ビルを破壊する店子を大家が追い出すのは当然です。少なくともビジネスマンたるトランプ氏はそうするでしょう。
彼にとって、日本やドイツとの同盟に関する懸案は「テナント料金の値上げ」問題です。しかし韓国とは「不良の店子」をどう処理するかの問題なのです。
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