
(前回から読む)
国家の存亡がかかる時というのに、韓国は米国から「捨て駒」扱い。日本に八つ当たりして憂さを晴らすのが関の山だ。
「属国扱い」で大騒ぎ
「中国の属国扱いされた」と韓国人が怒っている、という話で前回は終わりました。
鈴置:ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)との会見でトランプ(Donald Trump)大統領が「韓国は歴史的に中国の一部だった」と語りました。「WSJ Trump Interview Excerpts: China, North Korea, Ex-Im Bank, Obamacare, Bannon, More」(4月12日、英語版)です。
韓国メディアは大騒ぎ。記者会見などを通じ、米中両国政府に発言の真意を質しました。保守系3紙はこぞって社説で怒りを表明しました。
中国政府にも質したのは「(4月6、7日の)米中首脳会談で習近平主席からそう説明を受けた」とトランプ大統領が語ったからです。
韓国人は「属国ではなかった」と言い張るのですか?
鈴置:「属国問題」に関し、韓国には定番の「説明」があります。今回も東亜日報がその理屈を展開しています。
4月20日の社説「『韓国が中国の一部だった』との習近平の認識 韓中関係の障害に」(韓国語版)から引用します。
- 近代以前、中国と周辺国は朝貢関係を結んでいた。知識のない人が見れば、帝国と植民地の関係に見えるが、実態は西洋の主権国家同士の関係と変わらないというのが歴史学界の定説である。
貢女も独立門も
本当ですか?
鈴置:強弁です。朝鮮半島の歴代王朝は中国の歴代王朝に朝貢し、冊封体制下にありました。王が即位するには中国の皇帝の承認が要りました。若い女性も制度的に貢いできました。それを指す「貢女」(コンニョ)という言葉もあります。
これらからすれば「主権国同士の関係だった」とはとても言えません。「歴史学界の定説」部分も「韓国の歴史学界の定説」と言うべきでしょう。
ソウルには1897年に建てられた「独立門」という名の建造物があります。日清戦争(1894―1895年)の結果、朝鮮朝は清の冊封体制を離脱することができました。
その「独立」を内外に示すために作られた門です。韓国人もそれまでは「独立していなかった」と認識していたことを証明しています。
なるほど。
鈴置:ただ、朝鮮半島の人々は「中華帝国の一部」であることを誇りとしてきました。韓国語のSNS(交流サイト)では「日本人は劣った民族である」といった会話が盛り上がります。日本人が中華帝国の外の「化外の民」――野蛮人だったとの認識からです。
一方で、韓国人は中国に根深い恐怖心を抱いています。地続きの超大国、中国との戦争で負け続け、支配されてきたためです。
韓国メディアが「天皇」を「日王」と表記するのは、「皇」という漢字を使えるのは中国だけなのに、日本ごときに使っては中国から叱られると考えるからです。
日本の植民地になったこともない
昔、朝貢していたにしろ「今はもう、属国ではない」と主張すればいいのではないですか。
鈴置:そう思います。誰しも過去は変えられないのですから。しかし韓国人はそう考えません。理由は2つあります。
韓国が豊かになるほどに「我が国はずうっと独立国だった」と思いたくなったのです。「系図買い」の心境です。
だから日本の植民地支配も「なかったこと」にしようと「あれは日本の不法占拠だった」と強調し始めたのです。
もう1つは中国が再び強くなるに連れ、その言うことに逆らえなくなったことです。「属国に戻りつつある」と内心忸怩たるものがあるからこそ「昔は属国だった」と指摘されると、逆切れするのです。
米中が対立する案件の多くで、同盟国の米国ではなく中国の言いなりになる(「米中星取表」参照)。そんな韓国を見て、米国人が首を傾げます。「世界最強の同盟国をないがしろにして、何であんな非民主主義国にゴマをするのか」というわけです。
案件 | 米国 | 中国 | 状況 |
---|---|---|---|
日本の集団的自衛権 の行使容認 |
● | ○ | 2014年7月の会談で朴大統領は習近平主席と「各国が憂慮」で意見が一致 |
米国主導の MDへの参加 |
● | ○ | 中国の威嚇に屈し参加せず。代わりに「韓国型MD(ミサイル防衛)」を採用へ |
在韓米軍への THAAD配備 |
△ | ▼ | 韓国は「要請もなく協議もしておらず決定もしていない(3NO)」と拒否していたが、朴槿恵大統領の弾劾訴追後の2017年2月28日にようやく米軍への用地提供を決定 |
日韓軍事情報保護協定 (GSOMIA) |
△ | ▼ | 2012年6月、中国の圧力もあり韓国が署名直前に拒否。締結を望む米国に対し、朴槿恵大統領は「慰安婦」を理由に拒否。しかし下野要求デモが激化した2016年11月突然に締結 |
米韓合同軍事演習 の中断 |
○ | ● | 中国が公式の場で中断を要求したが、予定通り実施 |
CICAへの 正式参加(注1) |
● | ○ | 正式会員として上海会議に参加。朴大統領は習主席に「成功をお祝い」 |
CICAでの 反米宣言支持 |
○ | ● | 2014年の上海会議では賛同せず。米国の圧力の結果か |
AIIBへの 加盟 (注2) |
● | ○ | 米国の反対で2014年7月の中韓首脳会談では表明を見送ったものの、英国などの参加を見て2015年3月に正式に参加表明 |
FTAAP (注3) | ● | ○ | 2014年のAPECで朴大統領「積極的に支持」 |
中国の 南シナ海埋め立て |
● | ○ | 米国の「明確な対中批判要請」を韓国は無視 |
抗日戦勝 70周年記念式典 |
● | ○ | 米国の反対にもかかわらず韓国は参加 |
(注2)中国はAIIB(アジアインフラ投資銀行)設立をテコに、米国主導の戦後の国際金融体制に揺さぶりをかける。
(注3)米国が主導するTPP(環太平洋経済連携協定)を牽制するため、中国が掲げる。
彼らに「冊封体制」下の人々の旧・宗主国への恐怖心を説明すると、ようやく疑問が解けたという顔をします。トランプ大統領がWSJにわざわざ「韓国は中国の一部だった」と語ったのも、そんな納得感からかもしれません。
なお、ベトナム人には韓国人のような鬱屈はありません。ベトナムの王朝も中国の王朝に朝貢したことがありましたが、戦争でしばしば勝ったからです。最近では中越戦争(1979年)で、中国の侵略軍を散々に打ち負かしました。
中国人も「ベトナムは属国だった」などと下には見ません。そんなことを言えば「属国に負けたのか」と笑われてしまうからです。
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