トランプこそが戦争勢力
南北はなぜ、メディアを誘導したのでしょうか。
鈴置:「北朝鮮が本気で非核化を目指している」との錯覚を世界に拡散する目的です。米朝首脳会談を開けば、トランプ(Donald Trump)大統領がぎりぎりと「非核化」を突くのは確実です。
北朝鮮が言い逃れをすれば、トランプ政権は軍事行動に出る可能性が高い(「しょせんは米中の掌で踊る南北朝鮮」参照)。
それを防ぐ数少ない手法が「南北が対話を通じ、非核化なり平和に向け前進している」とのイメージを世界に植え付けておくことです。上手に持っていけば「トランプこそが戦争勢力」との空気を世界に広め「米国の暴走」を防げるかもしれません。
トランプ政権が国際世論に屈するでしょうか。
鈴置:分かりません。でも、南北にとって他に手がないのです。今回の板門店宣言では「完全な非核化」という世論工作に加え、もうひとつ術策を繰り出しました。
「南北と米国の3者、あるいは南北と米中による4者協議の開始を推進する」ことでも合意しました。目的は「朝鮮戦争を終息させ、停戦体制を平和体制に変更するため」とうたっています。
3者会談にしろ4者会談にしろ、会談が開かれることになれば「非核化も多者会談で話し合おう」と南北は言いだすつもりでしょう。要は、米朝首脳会談で「非核化」を論議するのを避ける作戦です。
1950年 | |
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1月12日 | 米国、アチソン声明を通じ「韓国は防衛線の外側」と示唆 |
6月25日 | 北朝鮮軍が38度線を南進し勃発 |
6月27日 | 国連安保理、北朝鮮への非難決議採択 |
6月28日 | ソウル陥落 |
7月7日 | 国連軍結成 |
9月15日 | 仁川上陸作戦 |
9月27日 | 米海兵第1師団、ソウル奪回 |
10月2日 | 中国「米軍が38度線を越えれば参戦」とインドを通じ警告 |
10月9日 | 米第1騎兵師団、38度線を越北 |
10月19日 | 中国人民志願軍、鴨緑江を渡河 |
10月26日 | 韓国第6師団、鴨緑江に到達 |
12月5日 | 中朝軍、平壌を奪回 |
1951年 | |
1月4日 | 中朝軍、ソウルを奪回 |
3月15日 | 韓国第1師団、ソウルを奪回 |
4月11日 | マッカーサー、国連軍総司令官など全ての役職から解任 |
6月23日 | ソ連、休戦協定の締結を提案 |
7月10日 | 開城で休戦会談を開始 |
1953年 | |
1月20日 | アイゼンハワー大統領就任 |
3月5日 | スターリン死去 |
7月27日 | 休戦協定締結 |
金正恩は気さくな人
韓国の保守は板門店宣言を認めるでしょうか。
鈴置:北の核武装を認めることになりかねないので、保守派は全力で反対するでしょう。ただ、韓国人はムードに弱い。
各放送局は今回の南北首脳会談を極めて前向きに報じました。韓国政府のキャッチフレーズ「平和、新しい始まり」のノリそのものでした。
金正恩(キム・ジョンウン)委員長に対しても「予想外に気さくで柔軟な人だ」との評価を語る解説者がほとんど。「叔父と異母兄を殺しました」などと語る人は私が聞いた限り、いませんでした。
若くてはつらつとした李雪主(リ・ソルジュ)夫人も板門店にやってきて、文在寅(ムン・ジェイン)大統領夫妻と楽しげに談笑しました。この光景を見た普通の韓国人は、総じて板門店宣言を評価することになると思います。
アンケート調査でも、南北が平和協定を結ぶことに賛成と答えた人が78.7%もいます。反対は14.5%でした。リアルメーターという調査会社が4月18日に調査した結果です。
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