米中が「金正恩後」を話し合うのは予想されたことです。米国のランド研究所(Rand Corporation)は米中による北朝鮮の分割占領を研究し、地図まで公表しています(「米中ロがうごめく『金正恩後の北朝鮮』分割案」参照)。

ランド研究所の「北朝鮮2分割占領案」
ランド研究所の「北朝鮮2分割占領案」

 しかし、米国の国務長官が堂々と「米中密約」を語り、中国の外交部がそれを事実上、肯定するようになったのです。北朝鮮が米国との首脳会談を受け入れたのも、米中包囲網の締め付けを意識したためと思います。

トランプこそが対話派

ティラーソン演説の「米中密約」は話題になりませんでした。

鈴置:この演説の全く異なる部分が注目されてしまったからです。米国メディアは、トランプ大統領とティラーソン国務長官の対立の証拠として報じました(「米国務長官演説は『ハル・ノート』だ」参照)。

 北朝鮮への強硬策を検討するトランプ大統領に抗し、ティラーソン国務長官が対話を主張している――と、ピンボケの分析をNYT(ニューヨーク・タイムズ)など米国メディアが一斉に開陳したのです。

 その結果、金正恩後に関する米中談合は見過ごされてしまいました。日本の外務省は勘違いして「米国が対話路線に転じたのか」と右往左往しました。

 「転じる」も何も、初めからトランプ政権は対話路線なのです。だからトランプ大統領は韓国から米朝首脳会談を持ちかけられた瞬間、それに乗ったのです。

 4月18日に大統領自らが、ポンペオ(Mike Pompeo)CIA長官の極秘訪朝と金正恩委員長との会談をツイッターで公表したのも対話を熱望する証拠です。

 米国が首脳会談に熱心であるとの姿勢を世界に示せば、北朝鮮は断りにくくなります。トランプ大統領こそが対話派なのです。

 ただし、その対話の目的は譲歩を念頭に置いた話し合いではなく、ハル・ノートあるいはポツダム宣言を突きつけることにあるのですが。

核実験場を確保する人民解放軍

2018年初めに中国が朝鮮半島有事を想定した大規模な軍事演習を実施しました。

鈴置:日経の中沢克二編集委員が「米朝戦争への備え、中国軍が異例の全軍訓練」(1月9日)で報じ、関係者の間で大きな話題になりました。

 1月3日、習近平主席の指揮のもと人民解放軍は全軍が臨戦態勢に入る極めて大規模な訓練を実施しました。中沢克二編集委員は異例の演習の目的を以下のように解説しました。

・米軍が中国の反対を押し切って北朝鮮領内に踏み込むなら、中国は権益確保へ軍を動かす覚悟が要る。
・万一、戦いが始まるなら中国軍は68年前の米軍と同様に、朝鮮半島の西海岸に上陸する手がある。平壌は目の前だ。米軍と直接、戦わないにしろ、平壌付近を押さえれば優位に立てる。
・一方、陸から北朝鮮に踏み込む中国軍には、別の任務がある。中朝国境から北朝鮮に百キロほど入れば、豊渓里の核実験場を含む核関連施設を押さえ込める。

また、「豊渓里」が出てきました。

鈴置:トランプ大統領が軍事行動を決意した場合、米海空軍は北朝鮮の核施設を空爆します。ただ、核弾頭の確保と核技術者の拘束は空からはできません。

 陸上部隊を派遣するにせよ、大兵力は送れない。そこで中国人民解放軍との協同が不可欠となるのです。その際には、米中両軍の衝突を避けるため、作戦区域の調整が必要です。

 ティラーソン演説も「もっとも重要なことは核兵器の確保だ」「我々は中国とそれをどう実現するか話し合ってきた」と明かしています。

・the most important thing to us would be securing those nuclear weapons they’ve already developed and ensuring that they - that nothing falls into the hands of people we would not want to have it. We’ve had conversations with the Chinese about how might that be done.

在韓米軍の撤収が射程に

米中両軍が朝鮮半島に同時に侵攻するのですね。

鈴置:まだ決まったわけではありません。なお、近未来小説『朝鮮半島201Z年』では中国軍だけが侵攻します。中国は単独で汗をかく代わりに、半島の支配権を米国から認められるのです。

 軍事行動には至らないにせよ、朝鮮半島で構造変化が起きる可能性が極めて高い。米国が北朝鮮への軍事攻撃を覚悟したからです。すると中国も対応措置をとらざるを得ない。

 もともと中国も北朝鮮を見限り始めていた。米国も中国や北朝鮮側になびく韓国との同盟が続くのか、疑問に思っていた。米中は核問題を解決するのを機に、安全保障の枠組みも変更する方向に動いているのです。

 4月17日に安倍首相と会談した後のトランプ大統領の発言が興味深い。「南北首脳会談で朝鮮戦争を(正式に)終結させることができるかもしれない。それを祝福する」と語ったのです。

・South Korea is meeting, and has plans to meet, with North Korea to see if they can end the war. And they have my blessing on that.

 韓国では、文在寅大統領と金正恩委員長が「朝鮮戦争は終結した」と宣言すると予想する人が増えている。そして保守派はこれを警戒しています。

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