そもそも今回の「決定書」で北朝鮮は米国に核武装を認めろと迫ったのです。①で「核兵器を保有した」と宣言したうえ、③④で核不拡散条約の加盟国と同様に核実験や核の拡散はしないと表明。要は、核保有国の仲間に入れてくれ、と言ったのです。

北朝鮮が譲歩したのかと勘違いしていました。

鈴置:そう思ってしまった人が多い。例えば「NHK NEWS WEB」に載った4月21日の昼のニュースの見出しは「北朝鮮 核実験とICBM発射実験中止 核実験場も廃棄と発表」(4月21日12時01分)。

 この記事も前文でちゃんと「ただ、核保有の立場に変わりはなく、核やICBMの実験を再開する余地も残しています」と指摘しています。が、見出しだけ見ると北朝鮮が改心してまっとうな国になったかと思ってしまいます。

朝鮮半島の春が大股で近づく

北朝鮮は核保有国の仲間に入れろと要求しながら「いい子になった」と宣伝する……。

鈴置:もう、それしか手がないのです。金正恩氏が生き残るには4月27日の南北首脳会談を利用して米国に体制の存続を認めさせるしかない。

 それには韓国の世論を軟化させる必要があります。文在寅(ムン・ジェイン)政権は北朝鮮に好意的――はっきり言えば言いなりです(「米朝首脳会談は本当に開かれるのか」参照)。

 しかし、保守派は北朝鮮のペテンを見抜いています。そこで韓国の世論を手なずけるために「核・ミサイル実験の中止」や「核実験場の廃棄」を言い出したのでしょう。

そんなペテンに引っ掛かるのでしょうか、韓国人は。

鈴置:保守政党や保守系メディアは「偽装平和攻勢だ」と批判しました。一方、青瓦台(韓国大統領府)は北朝鮮の表明を直ちに歓迎しました。

 これを受け、聯合ニュースは「北朝鮮の自発的な核実験場廃棄に韓・米が歓迎…『朝鮮半島の春』が大股で近づく」(4月21日、韓国語版)と極めて前向きの見出しで報じました。聯合ニュースは文在寅政権寄りの報道ぶりで有名です。

 左派系紙ハンギョレも社説「朝鮮半島の運命がかかる歴史的な首脳会談への期待」(4月22日、韓国語版)で、北朝鮮の表明を手放しで――何の疑いもなく、称賛しました。

 事実がどうであれ、半島の春――平和共存時代の到来を信じたい韓国人も多いのです。首脳会談で南北が「朝鮮戦争の終結」を宣言すれば「北朝鮮が核を捨て経済重視に転換すると言いだしたのだから、経済制裁を緩和すべきだ」との声が高まるでしょう。

 ハンギョレの社説は先回りして「北朝鮮の体制を保証すれば、中国やベトナムのように経済開放への道を開いてやれる」「北朝鮮が核から経済へと路線を転換したことにより、経済建設への世界の支援と協力を受ける名分ができた」と書きました。北朝鮮は大笑いしていることでしょう。

「対話のワナ」にはまった金正恩

北朝鮮は米国を交渉相手と見なし、韓国は無視していました。

鈴置:金正恩委員長はトランプ(Donald Trump)大統領の仕掛けた「対話のワナ」にはまった。これから脱するには、韓国を踏み台にするしかないのです。

 北朝鮮は「米朝首脳会談に応じる」と韓国を通じ、間接的な形ながら表明してしまった(「『時間稼ぎ』の金正恩に『助け舟』出した文在寅」参照)。

 米朝首脳会談の場でトランプ大統領が「直ちに核を廃棄するのかしないのか」と迫るのは間違いありません。

 金正恩委員長が「イエス」と答えれば、トランプ大統領は米国や国連の査察機関をすぐさま送りこんで、本当に核施設が廃棄されたのか確かめると言い出すでしょう。リビアを非核化したやり方です(「米朝首脳会談は本当に開かれるのか」参照)。

 「NO」と答えれば、トランプ大統領は世界に経済制裁を強化するよう呼びかけるでしょうし、空爆など実力行使に出る可能性もある。ある専門家の言葉を借りれば、米朝首脳会談は無条件降伏――「ポツダム宣言」を言い渡す場になるのです。

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