「アチソンライン」が復活

「独りよがりの遊び」とは激しい表現ですね。

鈴置:米国との同盟を失いかねないのです。それぐらいの言葉を使いたくなるでしょう。

 保守言論界の大御所である金大中(キム・デジュン)朝鮮日報顧問も同じ趣旨の記事を翌4月11日に載せました。「5月9日の選択と韓米関係」(韓国語版)です。

  • 韓国の左派政権の下で韓米同盟関係はどのようになり、韓国の安全保障はこれまでのように維持できるのか――。これが現在の韓国の絶体絶命の問題だ。
  • 楽観的に見て韓米「関係」が維持されたとしても、少なくとも軍事的「同盟」は弱体化する。悲観的に見た際、同盟関係に異常が生じ、米国は日本列島を防御線とする「アチソンライン」にまで後退、韓国は大陸側に放置されるだろう。

 「アチソンライン」とは1950年1月12 日に米国のアチソン(Dean Acheson)国務長官が演説で明かした米国の防衛領域を示す限界線です。

 「防衛線はアリューシャン列島―日本―沖縄―フィリピンにある」と定め、韓国をその外に置きました。これを聞いた北朝鮮の金日成(キム・イルソン)首相(当時)が「南に攻め込んでも米国は介入しない」と判断、朝鮮戦争を始めたのです。

 「アチソンライン」は韓国人のトラウマとなっています。中央日報のチョン・ヨンギ記者も、この言葉は使いませんでしたが「米国の東アジア防御ラインが韓国の休戦ラインから日本の西海岸に後退」との表現で「見捨てられ」の危険性を訴えたのです。

 金大中顧問は折に触れ「アチソンライン復活」の可能性を指摘してきました(「日米の『同時格下げ宣言』に慌てる韓国」参照)。しかし、これほどに切羽詰まった感じで書いたのは初めてです。

 「名誉革命」などと自らに酔って、保守派の大統領を追い出した韓国人(「『キューバ革命』に突き進む韓国」参照)。でもその結果、米国に見捨てられかけているとようやく気づき、大慌てなのです。

軟化して見せた文在寅

「見捨てられ論」は大統領選挙に影響を与えましたか?

鈴置:THAADの在韓米軍配備に関し、左派と中道候補がスタンスを微妙に変えました。

 4月10日の朝鮮日報とのインタビューで、文在寅候補は「北朝鮮が核挑発を続け、高度化するなら、THAAD配備が強行されることだろう」と語りました。

 一貫して「配備は延期すべきだ」「国会の同意が要る」と主張してきたのに「状況によっては容認もあり得る」と軟化したのです。

 同日の朝鮮日報のインタビューで、安哲秀候補は「国民の党」が「THAAD配備反対」を掲げていることに関し「大統領選挙の局面で、党は候補の意に沿って党論を定めるしかない」と述べました。これを受け「国民の党」も党論を「容認」に修正する方向です。

 安哲秀候補自身はすでに「配備が米国との合意に基づいて実施に移されている以上、国家間の約束は守る必要がある」と容認にカジを切っていました。

 両候補のインタビューは「文『北が核挑発継続ならTHAAD強行』 安『THAAD反対の党論撤回に向け説得』」(4月11日、韓国語版)で読めます。

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